医療は誰のためにある!?

今年4月、改正精神保健福祉法が施行されて以来、

精神科医療機関は、完全に金儲け主義に突っ走っていて、

俺は腹立たしさとともに、悲しみすら感じている。

 

そもそも厚労省は、今回の精神保健福祉法改正により、

「脱病院・脱施設」をかかげ、

患者を、地域や社会で受け入れていこうという方向性を指し示した。

そこには、“家族の負担を減らす”という意図もあった。

 

しかし現実には、治療の場から家族が排除され、

患者は、医療機関や職員の都合によって扱われているに過ぎない。

 

俺が今、携わっているケースの話をすると、

患者さんは何十年も前に精神疾患を発症し、

未治療のまま、これまで過ごしてきてしまった。

家族が俺のところに相談に来て、ようやく医療につなげることができたのだが、

一ヶ月が経った頃には、「退院」の話が出た。

 

たしかに患者本人は、入院前よりはこざっぱりとし、

薬もきちんと飲んでいるという。

しかし本人に、自分が病気であるという認識はないし、

自宅に戻れば元の木阿弥だろうことは、簡単に予測がついた。

 

では、厚労省が言うように、地域での受け入れが可能なのか?

たしかにグループホームなどの施設はあるが、

実は、精神障害者を受け入れてくれるところは少ない。

 

今回のケースでは、運良く患者さんの受け入れを

前向きに考えてくれる施設が見つかったものの、

そこからの医療機関の押し出しが、またすごくて、

「退院日は●日ですから!!」の一点張りなのである。

 

それでは、グループホーム入所までの準備期間は、一ヶ月もない。

本当にこのグループホームで患者さんがうまくやれるかどうか。

それを見極めるためにも、試しに宿泊をする時間も欲しいし、

職員の方たちにとっても、患者本人の人柄を知り、

人間関係を作るためには、時間がいるだろう。

それに、衣類や家具、日用品なども用意しなければならない。

 

家族が全面的に動ければいいが、

この患者さんの家族で、本人のために動けるのは一人だけである。

しかも他にも病人を抱えており、看病や介護をしながら、

患者さんの対応に当たっているのだ。

なおかつ自分の仕事も持っている。

 

俺は家族に変わって、医療機関の職員に、

もう少し時間の猶予をもらえないかと交渉したが、

聞く耳すら持ってもらえなかった。

おそらくその日にちを過ぎると、診療報酬点数が下がるなど、

医療機関にとって不都合なことがあるのだろう。

 

しかし、病院の決まりだからとか金とか、そんなものを抜きにして、

人間として感じるところはないのかと、俺は言いたい。

 

病気の家族を抱え、普通だったら心が折れそうな状況で、

何とかしようと頑張っているひとに対して、

ムチを打つようなことが、なぜできるのだろうか。

 

いくら厚労省が、「患者を地域や社会で受け入れていく」と謳っていても、

心の病気に関しては、家族も治療者の一員であると、俺は考えている。

一緒に住む、住まないに関係なく、家族の理解や手助けがあってこそ、

患者も社会生活を送ることができるのだ。

 

それなのに!!

精神保健福祉という分野のスペシャリストを名乗り、

心の病気についてしこたま勉強してきたはずの医療関係者たちが、

これだけ患者や家族の“心”をないがしろにしているのだ!

 

この現実に途方もない恐ろしさを感じるのは、

俺だけではないと信じたい。