俺のストライクゾーン

『押川なら、嫌なことでもやってくれる、言ってくれる』

俺に仕事を頼みにくる人たちの期待は、そこにあると、思っている。

 

精神疾患のひとに「あなたは精神病だ! 病院に行くぞ」と説得したり、

薬物など犯罪をやっている奴に向かって、「何やってんだ、コラ!」と言ったり……。

一般のひとは、それを「嫌なこと」と思っているようだが、

俺にとっては嫌なことでもなんでもなくて、

単純に俺が思う「本当のこと」を、言葉と行動で体現しているだけだ。

 

そもそも俺は、みんなが喜ぶような、わかりやすい言葉を使うことが嫌いなのだ。

「かっこいいね」「かわいいね」「頭がいいね」みたいな表面的な褒め言葉や、

面白い、おかしいだけで成立するような会話なら、しないほうがマシだ。

だいたい俺みたいな面構えの奴に、歯の浮くようなセリフ言われたって

気持ち悪いだけだろ?

 

かと言って、インテリぶって、難しい言葉を並べて、

講釈をたれるようなことも、俺にはできない。

学もないし、似合わないし。

 

そんなわけで、俺のコミュニケーションは必然的に、

「俺の思う本当のことを言う」という、非常にシンプルなものになった。

 

しかしこれは、まったくもって非社交的なやり方である。

だから俺みたいな人間は、組織には存在できないし、

してはいけないのである。

思い起こせばガキの頃から、学校の教師は俺の扱いに非常に困っていたもんな(笑)

 

しかしこのシンプルさがなければ、“本物”の人間には伝わらない。

たとえば、精神疾患により社会性も思考力も失ってしまった、

“本物”の病気のひとに対して

「かわいそうですね~」「病院に行きましょうか、どうしましょうか」なんて、

表面的な言い方をして、響くわけがないのである。

そういう意味では、患者さんは俺にとって、“本物”の人間だ。

だから俺は、彼らをリスペクトしているし、

本当のことを言って、本音で語り合いたいと、いつも思っている。

 

「押川は、ストライクゾーンが劇狭(げきせま)だ」

と、あるひとに言われたことがあるが、まったくもってその通りだ。

むしろ、俺のことをよく分かってくれているな! と、嬉しくなったくらいだ。

 

俺は、せまいせまーい世界で、“本物”の人間だけを相手にして

生きていきたいのである。

 

だから俺のところには、本当に困ったひとしか来なくていいと思っている。

 

たまに、のぞき見趣味的に、俺に会いに来るひとがいるのだが、

そういうひとに限って、あとから「押川に嫌なことを言われた」とか陰口を言うんだよな。

 

「とってもすてきですね」「イケメンですね」「かわいいですね」

なんていう褒め言葉が欲しいひとは、どうぞよそに行ってください。

 

だいたい、自分にとって心地いいことや、面白おかしいこと、

そんなことを言われるのが大好きなひとは、

俺からしたら“本物”の人間じゃないし、

俺に頼まなきゃいけないような、悩みも悲しいこともないと思うぜ。