冷やかし電話と危機管理

ベネッセの個人情報流出の件でも思ったけど、

今は、危機管理・コンプライアンスに非常にうるさい時代で、

企業にしても個人にしても、皆、敏感になって“予防”や“抑止”に励んでいる。

でも俺からしたら、最後に頼りになるのは、やっぱり動物的感覚ではないかと思うのである。

 

個人情報がダダ漏れになることはたしかに困るが、

その一方で、ブログやSNSで、写真を含めプライベートを気軽に発信するひとがいる。

それだけじゃない。

今はほとんどのひとが、買い物にネットやクレジットカードを利用するだろう。

コンビニやスーパーでも防犯カメラは至る所にある。

それらの情報は、表向きは守られることになっているが、

絶対に流出しない、漏れないという確証は、どこにもないのである。

 

本当に個人情報を守ろうとしたら、

周囲に誰も住んでいないような田舎で、自給自足の生活でもするしかない。

それはそれで、危機管理・防犯上どうなのか? ということにもなる。

 

そういう意味では、個人情報保護法という法律があることにより、

皆、なんとなく「自分の情報は守られているだろう」という甘い考えがあるのではないだろうか。

予防や抑止は大切なことだが、最初から危ないことをすべて排除できると思うこと自体、

まったく、危機管理・コンプライアンスがなっていないとも言える。

 

たとえば先日、俺の事務所に冷やかしの電話がかかってきた。

東京都内の某保健所の職員の名前を騙り、

「暴力行為が激しく、保健所職員や医療機関だけでなく、

警察ですら手を焼いている患者の移送を、押川に頼めないか」

と、電話をかけてきたのだ。

 

電話をとったうちのスタッフは、半信半疑ながらも、

内容があまりにも具体的で、話しぶりもなめらかであったことから、一通り話を聞き、検討すると返事をした。

しかし数時間後には、これが単なる冷やかしの電話だったことが発覚した。

 

おそらく無理難題をつきつけて、こちらにNOと言わせ、

「押川にもできないことがある」と笑いたかったのだろう。

 

俺は、メディアに顔を出し、名前も出し、正々堂々やっているので、

こういった、冷やかし、いたずらの類いの電話を受けることもある。

最初の電話対応は主にスタッフに任せているが、

上記のように、非常に巧妙な作り話を持ちかけてくるひともいれば、

深夜早朝のヘンな時間帯に電話をかけてきたり、

批判の電話を執拗にかけてきたりする人も、中にはいる。

 

俺のところは民間企業なので、そういう輩を一方的に排除することもできなくはないのだが、

それはそれで、今後の危機管理に役立てるようにしている。

 

なぜなら、ワケの分からん電話の中に、一つの真実があることもあるし、

表面的には嫌がらせ、無意味な批判の電話の中に、気付きがあることもあるからだ。

 

大切なことは、物事が実際に動いたときに、

それをどう処理するか!? ということだと俺は思っている。

それこそ、動物的感覚をもってしてな。

 

相手とホンチャンで対峙したときに、何を感じ、どう動くか。

俺は警備業時代から何十年とかけて、その能力を磨いてきたのだ。

それは、俺があえて次から次へと危ない現場に足を踏み入れてきた実績でもある。

 

一方で今の時代、あまりにも予防や抑止を手厚くすることで、

人間からこの動物的感覚を奪ってしまっている側面もある。

 

さて、先の冷やかし電話の件で言えば、

相手は、発信者番号を通知したまま、電話をかけてきていたそうな。

手の込んだ冷やかし電話のわりに、個人情報を自ら残した状態で、逃げたのである。

これこそ、危機管理に欠けていることこの上ない! と言えるのではないだろうか!?