ストーカー病

ストーカーは病気であり、精神科医療での治療を受けるべきだと

明言している精神科医がいる。

 

福井裕輝著 ストーカー病

ストーカー病―歪んだ妄想の暴走は止まらない―

 

ストーカー行為も、もはや「病気」として捉えられるようになった。

 

もちろん、「病気なのだから罪に問われない」と言いたいわけではない。

犯した罪に対しては、司法で裁かれるべきである。

 

ただし、病気であるということがこれだけはっきりした以上、

医療との関係は、切っても切れないものになったと思う。

 

俺も以前、ストーカー行為を行い警察に逮捕された対象者を、

精神科医療につないだことがある。

 

本人は逮捕されてもなお、相手に恨み辛みをつのらせ、

入浴や食事もままならない生活を送っていた。

家族ともまともに会話をせず、「相手を殺して自分も死にたい」などと口走るばかりで、

まさに「自傷他害の恐れ」のある状態だった。

 

だから、家族から相談を受けた俺は、迷いなく医療につないだ。

 

家族が本人のために本気で頑張った、という背景もあり、

しばらくの入院生活とその後の通院により、今は社会復帰している。

精神科医療からのアプローチが功を奏した一つの例である。

 

薬物、アルコール、ギャンブルなどへの依存もしかりだ。

 

違法薬物はともかく、アルコールやギャンブルは、さらに厄介だ。

酒もパチンコも競馬も、違法行為ではないからこそ、病気の自覚を持ちにくい。

 

このようなアディクション(嗜癖・依存)の問題を抱えるひとを

支える家族の苦しみは、壮絶なものがある。

 

中には、ひとたび酒を口にすると、意識が飛ぶまで飲んでしまい、

いくら家族が制止しても、飲酒運転をして事故を起こしたり、

家族や第三者に暴力を振るったりするひともいる。

 

あるいは、財産を使い果たしてもギャンブルをやめられず、

家族を半殺しにしてまで、借金を作らせるようなひともいる。

 

病気という自覚がない以上、本人を医療につなげるのはひと苦労だし、

そもそも専門に特化した医療機関が非常に少ない。

 

家族が頑張って医療につないでいるケースもあるが、

依存の対象となるものを、なかなか手放さないひともいる。

退院すればすぐに同じことをやり、再び警察沙汰を起こし、

もう十数回も入退院を繰り返しているひともいるのだ。

 

だいたいそういうひとたちは、

入院中もほかの患者に対して暴力を振るったり、

職員とトラブルを起こしたりしている。

 

何が言いたいかと言うと、医療にかかることでスムースに社会復帰できるケースもあれば、

同じことを何度も繰り返すケースもある。

 

対象者は一人ひとり、それぞれの経緯や家庭環境、生育歴等、異なる。

ストーカーやアディクション(嗜癖・依存)の問題はとくに、

本人の生育歴や、背負っている背景が大きく関わってくる。

 

だからこそ、一人ひとりにきめ細やかに対応できるような、

専門性に特化した治療、そのための医師やスタッフが必要とされている。

 

しかしこの国では、専門の治療法も含め、現実的に機能しているとは言えない。

そして今のところは、そういった患者の病状や過去の経緯に関係なく、

一律で早期退院(三ヶ月)が促進されている。

 

ストーカー病を始め、薬物やアルコールなどへの依存に対する治療は、

現行の投薬中心の治療とは異なってくるため、

今後の専門の治療法の確立や、入院期間の見直しに期待したい。

 

少なくとも現状の精神科医療の仕組みでは、

家族が「生涯、入院をさせたい」と望むほどのケースも、あるのだ。

 

その事実から、目を逸らせるわけにはいかない。

 

単に医療機関に閉じ込めておけ、と言いたいのではなく、

継続して治療が行われている以上、

「長期入院=人権侵害」のように非難されてしまっては、

一生懸命、治療に取り組んでいる医療機関も報われない。

 

これまでの痛ましい事件を教訓にして、

事件や事故を起こさない、被害者を出さないためにどうするか。

治療法や処遇、システムも含めて、真剣に考えるときが来たように思う。

 

それこそが、本当の意味で「人権を守る」ことにつながると、

俺はいつも思っているのだが……。