野生のおサルさん②

野生のおサルさんは、誰の中にもいる。

 

だから俺は、ひとと接するときには、肩書きや学歴、見てくれではなく、

そのひとの中にいる「おサルさん」をみる。

 

そうすると、立派な経歴をもち、見た目もよくて、物腰も柔らかくて……

という、それこそ見合い用の身上書を書いたら、

100人中99人が「素敵」と思うような人間の中に、

とんでもないおサルさんを見ることがある。

 

たとえば違法薬物の乱用や、金銭がらみの犯罪行為が発覚することもあるし、

異性にだらしなくて、二股三股の結婚詐欺のようなことをしていたり、

交際相手にDVともいえる行為を行ったりしているひともいる。

 

犯罪ではなくても、対外的には、仕事がデキる風に振るまっている人間が、

実は、まともに仕事をしていないどころか、

気に入らない部下の足をひっぱっていたり、とかね。

 

まさに、欲求の権化であるおサルさんが、暴れまくっている。

 

俺はガキの頃から、ことさら人間観察に励んできたので、

今では、ちょっとした仕草から、

タチの悪いおサルさんの存在に気づけるようになった。

 

参考までにポイントを挙げておくと、

すごく見た目がよくて、日頃の振るまいもスマートなひとが、

・タクシーや他人の車に乗るときに、ドアを思いっきり閉める。

・飲食店の扉やのれんを、乱暴に開閉する。

・店員に上から目線で横柄な言葉使いをする。

・ひと様から金や物を預かるときに、奪うようにとる。

・そいつ自身は身ぎれいにしているのに、自室がゴミ部屋。

・利害関係のある相手には、丁寧でやさしい対応をするけど、

そうではない相手や、目下の者や立場の低い人間には、雑な対応しかしない。

 

等々、もっとたくさんあるのだが、こんなことが挙げられる。

 

こういう動作をするからと言って、

誰もが悪い人間というわけではないのだが、俺の見てきた限りでは、

あとからとんでもない人間性が発覚することが多い。

 

ふだんは一生懸命、なだめて隠しているおサルさんが、

何気ないところで少しずつ、顔を出してしまうんだな。

 

どれも、相手のことをきちんと見ていれば、

早い段階で「あれ?」と気づくはずなのだが、

世の中には未だに、肩書きや見た目、物腰などにだまされ

相手を見る目が曇ってしまうひとが、いるようだ。

 

誤解のないように言っておくけど、

「問題のあるおサルさんを飼っている相手とは、関わりをもつな!」

と、言いたいのではない。

 

俺が言いたいのは、最初から盲目になってしまい、

相手のおサルさんが、どんなものかの判断もせずに、

友人だ、恋人だとはしゃいでいるのが、一番危険ということだ。

 

何かの拍子に相手の悪事がバレ、自分が巻き込まれて初めて

「そんなひとだと思わなかった」なんていうのでは、

取り返しがつかないことだってある。

 

だいたい、「類は友を呼ぶ」というように、

自分の中にも似たようなおサルさんがいるからこそ、

共鳴しあっていることを、忘れてはならない。

 

誰の中にでもいる「おサルさん」だからこそ、

自覚して、手なづけることが必要なんだな。

 

ちなみに、俺もだんだん分かってきたけど、

どんな分野であっても、ガチンコで働き、

本気で他人のことやら家族のことやら考えて生きているひとからは、

なんともいえない野性味が、滲み出るもんだぜ。

 

とくに、年をとってからは、そうなるな。

 

もうね、男とか女とか関係ないの。

人間としてのワイルドさが、あふれている。

 

そういうひとほど、自身のおサルさんを、隠したりしない。

言いたいことをはっきり言ったりはするけど、

心根はやさしい気持ちの持ち主である。

 

自身のおサルさんと共存するために、

ひと様とのつながりはことさら大事にしているし、

寝る間も惜しんで、学びつづけ、考えつづけ、ひとのために働くなど、

日常生活の中で、大きな犠牲を払っている。

 

結局、俺たちの中にいる「欲求」のおサルさんは、

それだけの負荷をかけることで初めて、コントロールできる。

 

反対に、ラクなこと、楽しいことばかり考え、

面倒なことや人間関係をどんどん排除しているひとのおサルさんは、

肥えていく一方だ。

 

仕事にしても、友人や恋人にしても、深く付きあう相手に対しては

「このひとのおサルさんは、どんなものか」

「おサルさんと、ちゃんと向き合えているか」

と、注意深くみてみることも、必要だと思う。

 

もちろん、自分の中にいるおサルさんに対しても、だ。