上を見るか下を見るか

自分より若い人間と一緒に仕事をするに当たって、

相手が自分の何を見ているかと言えば

「この大人は、どれだけキツいことをしているのか」

ということではないかと、思うのだ。

 

俺も仕事で、20代の若者の手を借りることがあるのだが、

彼らは最初のうち、言葉にはしないけれども

「押川は、本当に現場に出て仕事しているのか?」

と、疑いをもって来ているのが分かる。

 

その後、一緒に仕事をする中で、

俺が実際に現場で身体を張っているのを見て、

ようやく、俺を認めるのである。

 

もちろん相手は年下なので、

そんなことを率直に言ってくるわけではない。

表面上はあくまでも、俺を立てるような振る舞いをするし、

「押川さんすごいですね」なんて、お世辞を言ったりする。

 

でも内心は、ちゃんと相手を品定めしている。

 

まあ、当たり前のことではあるよな。

だいたい仕事をする以上、上から下に命令がいくわけで、

とくに、体力や気力を酷使するような役割ほど、

若い奴らに任されるのである。

 

その過程は、若い奴らの仕事の能力や、

人間力を鍛えるために、必要なことである。

 

しかしその一方で、命令を下す立場の上司が、

遊びほうけて、何も重要な仕事をしていなかったり、

自分はラクで安全なところにいて、責任逃ればかりしていたり、

そんなことが続けば、信用も何もあったものではない。

 

俺は警備業時代に、大なり小なりたくさんの建設会社を見てきた。

だいたい建設会社の社長ってのは、破天荒で豪胆なタイプが多いのだが、

景気の波に左右されず会社が存続していた会社の社長は、

どんなに派手に遊んでいても、仕事をとるために頭を下げてまわっていたし、

部下が失態を犯せば、すっとんできて、尻ぬぐいもしていた。

 

それが大人の役割なんだな、と俺はつくづく思ったよ。

 

ブログにも書いたけど、尊敬する剣山製作会社の石﨑社長の言葉を思い出す。

 

「人間、年をとればとるほど、先輩は減って後輩が増える。

だからやっぱり、若いひとにはちゃんとせないかん!」

 

社長は、こうも言っていた。

「友達でさえ、どんどん亡くなっていくんだからね」

 

最後に残って、助けてくれたり支えてくれたり、

そして新しいことをどんどん教えてくれるのも、

自分より若い奴らなのである。

 

どうもこの国は、年齢や肩書きなども含めて、

ヒエラルキーが上の人間が、良い思いができる仕組みになっている。

だからこそ、上の人間にばかり、ゴマをすって、おべんちゃら言って、

下の人間をいじめまくっているような大人も、少なくない。

 

そういう輩を見るたびに俺は、「アホやのう」と思う。

 

いくら上から引き立ててもらって、仮に会社のトップに立てたとしても、

そのとき、周りは自分より若い、下の立場の人間ばかりになるのだ。

 

さんざん下の者をいじめまくった奴に、ついていく人間など、誰もいない。

 

別に若者に媚びを売ってご機嫌取りをする必要はない。

厳しく叱るべきときもあると思う。

しかし、褒めるところは褒めて、感謝すべきところはする。

相手の能力を伸ばすだけの協力を、汗をかいてでもする。

 

人間として当たり前の振る舞いであるのだが、

こういうことほど、上よりも下の人間に対して、

より丁寧にすべきではないかと、俺は思っている。