入院させようと…男が父親ら3人切りつけ

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(以下引用:日本テレビ系 3月30日)

 

入院させようと…男が父親ら3人切りつけ

 

東京・豊島区で30代の男が父親らを刃物で切りつけたとして逮捕された。

 

警視庁などによると、30日午前9時頃、豊島区高田のマンションで30代の男が68歳の父親らを刃物で切りつけた。父親が男を精神科の病院に入院させようと搬送業者を呼んだところ、男が業者の男性の首を切りつけたという。男性は首の左側を切られ重傷で、また、父親も額を切られて軽いケガをし、別の男性も顔にケガをした。

 

男はその場で逮捕されたが、意味不明なことを話しているということで、警視庁が慎重に調べている。

 

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精神保健福祉法では、医療保護入院の際の移送は行政が行うことになっているが、

(注:精神保健福祉法第34条 医療保護入院等のための移送の制度)

このシステムが形骸化していることは、拙著でも詳しく述べてきた。

 

現実に今では、家族から入院の相談を受けた保健所が、

民間の移送会社を家族に紹介することもある。

特定の移送会社と提携している医療機関もある。

 

また、別のニュースでは、この家庭の父親が、約一週間前に

本人の入院について、別の警察署に相談していたという報道もあった。

 

精神疾患に関する主管行政は、保健所(もしくは精神保健福祉センター)であるのだが、

とくに危険に満ちた状況のケースでは、現場の対応は警察に委ねられることが多い。

 

以前、「ひきこもり」という名称の記事でも書いたけれど、

現場は本当に危険に満ちている。

 

若い頃は俺も、前のめりで依頼を受けて、

脳みそがしびれるほどの怖い目にもあった。

つまり「危険」は、昔からあったのだ。

 

だが最近は、その危険度を、外から測りにくくなったように思う。

 

エントランス自体がオートロックのマンションが増え、

本人が一人暮らしをしている(あるいは家族を追い出している)ケースでは

日常をうかがい知ることさえ、難しい。

 

親でさえ本人の現状が分からず、必要な情報が得られないこともある。

危険な行為に関して、過小な申告をされることもある。

 

だからこそ俺は、依頼を受けた案件に関しては

徹底的にヒアリング・調査・視察を行う。

「THE 説得」でも放送されたように、

危険度の高いケースでは、警察にも協力を仰ぐ。

 

その分、時間も費用もかかるが、人の「命」にはかえられない。

 

しかし昨今の民間移送会社には、

電話一本ですぐに移送を行うような会社もあると聞く。

これでどうやって危機管理やコンプライアンスをしているのだろう?

と思うほど、とても安い金額で請け負っているところもある。

 

もちろん、今回の事件に関しては、本人がどのような状態だったのか、

家族がどういう経緯で移送を依頼したのか、

また、請け負った会社がどんな仕事をしたのかは、分からない。

 

しかし、起こるべくして起きた事件、という気もする。

 

当事者家族はもちろんだが、近隣住民の方々の不安は

いかばかりであっただろう。

 

実態が見えにくい案件が増えているからこそ、

このまま、法律や制度とは別のところで(水面下で)

民間会社による移送がまかりとおってしまうことは、

同じ仕事に就く身だからこそ、非常に危機感を抱く。

 

利用する家族にしてみれば、なんとか助けてほしい一心で、

その会社がどれほどの危機管理をしてくれるのか、

といったことまでは、知りようもないだろう。

何かあったときの責任の所在はどこにあるのか、という問題もある。

 

だからといって、今回のような事件が起きれば、なおさら、

保健所(行政)を主管とする法律自体に無理があることは、

もはや疑いようもない。

 

危機管理と医療のプロフェッショナルがチームを組んで、

緊急出動・対応ができる公的な仕組みが、早急に求められている。

 

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