孫と祖父母

少し前になるが、こんなニュースがあった。

(以下引用:読売新聞 12月14日(土))

たびたび金を無心の孫、困り果て祖父が通報

祖父(77)宅の敷地に無断で立ち入ったとして、島根県警津和野署は14日、孫で住居不定、無職の男(22)を住居侵入容疑で現行犯逮捕した。

孫はこれまで何度も祖父母に金を無心し、困り果てた祖父が同署に届けた。

発表では、孫は14日午後1時35分頃、同県吉賀町の祖父宅の敷地に無断で侵入した疑い。駆けつけた署員が取り押さえ、孫は「小遣いをせびりに来た」と容疑を認めている。

同署によると、祖父は「この1年半で計約300万円を渡した」と話しているという。

祖父は10日に孫が訪れた際、110番しており、署員が警告していた。

 

俺が関わってきた家族の問題にも、祖父母が登場することは、少なからずあった。孫が幼いうちは、小遣いやプレゼントをあげたり、甘やかしたりするのも、祖父母にとっては、楽しみの一つだろう。だが、孫が成人してからも、そのような関係が続いているとすれば、やはり、健全とは言えない

祖父母が資産を持っていなければ、孫が金の無心に来ても追い返すしかない。だが、多少の蓄えがあると、「無碍に断わるのもかわいそうだ」「孫の喜ぶ顔が見たい」「近所に知られたくない」「ほかの人に迷惑をかけるよりは…」などと考え、ずるずると継続的に金を渡してしまう。

 

俺の見てきたケースに限って言えば、孫は、「資格取得のために専門学校に通いたい」「就職活動のために東京に行く資金が必要だ」などともっともらしい嘘をついて、祖父母に大金を要求するパターンが多い。

祖父母は、「自分が金を出さなかったせいで、孫が●●になったと言われたくない」「悪者になりたくない」という心理的葛藤に陥り、「これで事態が好転するなら」と、根拠のない願望にすがってしまう。

 

また、もう一つ顕著な傾向として挙げられるのは、孫とその親の関係に、なんらかの問題が生じている場合が多い、ということだ。孫の親=祖父母にとっての子供(あるいは義理の息子や娘)であるため、祖父母もその問題を把握している。だからよけいに祖父母が孫に同情して肩入れしてしまう場合もあるし、祖父母には、家族の問題を根本から解決するようなエネルギーがないため、目の前の面倒を取り除く(金を渡す)対応に終始してしまうことにもなる。

そうなると、孫の問題を解決しようと考えたときには、「孫と親」「孫と祖父母」という二つの複雑な人間関係を、それぞれ解消していかなければならない。

 

いつも言っていることではあるが、この手の問題を根本から解決するためには、本人に対して、家族が一貫した対応をとる必要がある。いくら親兄弟が「なんとかしなければ」と厳しい対応をとっていても、祖父母に言えばわがままが通る…という状況では、本人が自らの過ちに気づくこともないし、自立にも結びつかないのである。

かといって、祖父母にこの実態を理解してもらうことや、孫に対して毅然とした対応をとってもらうことは、なかなか難しい。俺が携わったケースでは、本人を「本気塾(自立支援施設)」に入塾させるなどして、親同様、祖父母からも物理的に引き離すしか、方法がなかったこともある。

また、「家族・親族間でのトラブルでは、お金は最後の交渉手段」と言われることがあるが、まったくその通りだと思う。

よくあるのが、「これが最後」という約束をして、なけなしの貯金を渡してしまうケースだ。金を使い果たせばまた無心され、さらに地獄を見ることになる。本来なら、その最後の金こそ、「生き金」として使わなければならなかったのだ。

 

それにしても、このニュースのような家族・親族間の問題は、これまでにも山のようにあったはずだ。だが、傷害事件や殺人事件にでもならない限り、今回のように事件化され、報道されることは、あまりなかったように思う。なぜなら、この手の問題には、どうしても「民事不介入」という原則がつきまとうからだ。

そこへきて、今回の報道である。

俺の想像でしかないのだが、この手の問題に関する警察への相談が、とてつもなく増えているのではないだろうか。結果的に(親族間の)殺人に至る可能性があるという流れを踏まえ、「民事不介入とはいえ、あまりに悪質なケースに関しては、検挙することもある」という、警察の姿勢を表しているようにも思う。

近年は、ストーカー事件の多発もあり、男女間のトラブルに警察がどこまで踏み込むのかということで、「民事不介入」の認識が問題になることも増えてきた。

ちなみにストーカー防止策としては、来年度から、被害者からストーカー被害の相談受けた警察が、加害者への警告と同時に、専門の精神科医への診察や、臨床心理士の面談などを受けるように促していく取り組みが都内で試験的にではあるが、始まることになっている。

誤った認識から行動がエスカレートしていく構造は、家族間のトラブルでも同じである。対象者の精神状態や心理状態によっては、精神科医療による治療が必要な場合もある。

 

今回ニュースになった家族のケースも、わずか1年半の間に300万という大金を渡している。本人がそれを何に使ったのか、なんのために必要だったのかは分からないが、なんらかの根深い問題が横たわっているように思えてならない。祖父が警察に訴えたのも、万策尽き果てた結果ではなかったろうか。

本人の心に寄り添うという方法ではなく、結果的に事件として扱われる以外、本人を止められなかったことは、残念である。だが、説諭でも解決できないような状況であれば、警察を介入させてでも、毅然とした対応を取るべきである。まずは自分のしている行為のなんたるかを、本人に認識させることは非常に大切だからだ。

ただし罰を与えるだけでは、真の解決には結びつかない。本人の依存の対象となる人間関係を断ち切り、第三者と健全な関係を築けるよう導くことや、社会で生きていく道を見出してやること。これらの取り組みが重要なことは、言うまでもない。

高齢化社会が叫ばれる昨今、こういった「孫」が引き起こす問題は、家族を持つ身であれば、他人事とは言っていられないのかもしれない。