超ド級のリアル「マトリズム」

普段は漫画を読まない俺だが、鈴木マサカズさんの「マトリズム」は2巻も読んだ! 何が面白いって、薬物に関してものすごいリアルに描かれている。

 

俺がこの仕事をはじめた20年以上前は、「クスリはヤクザがやるもの」というイメージが強く、薬物依存症についても一般には認知されていなかった。俺への依頼でも、子供に妄想や幻覚があり、「統合失調症だから、医療につないでほしい」と相談されて、いざ移送に取りかかってみると、なんかおかしい……ということが、よくあった。いわゆる統合失調症の患者さんとは雰囲気が違うと感じたのだ。でも、本人は過去に通院歴があり、統合失調症と診断されているケースも多かった。つまり、精神科医でも誤診をするほど、薬物依存症という病気への理解は乏しかった。

 

その現実を見て俺は、「こりゃあ、薬物については、実地で学ぶしかねーな」と考えた。もちろん、自分でクスリをやるわけにはいかないので、自腹切って新宿の飲み屋街に通い詰めたわけだ。今はどうか知らないけど、当時は従業員や客の中に「ドラッグやったことあります」という人間がいっぱいいた。俺は彼らと会話をする中で、薬物を乱用すると、どのような症状が出るのか、聞き出していった。また、彼らの風貌や仕草を研究して、汗のかき方や体臭、思わず出てしまう癖など、薬物乱用者独特のパターンを学ぶこともできた。

 

「マトリズム」に出てくる登場人物の描写は、その辺りがすごく丁寧に描かれている。俺は唸った。鈴木さんは、かなり綿密な取材をしているはずだ。ネタバレしてはいけないのであまり言えないが、2巻のストーリーもなかなかぶっ込んできている。薬物は犯罪が絡むことだからこそ、本人の意思や努力とは別のところで、無数の落とし穴が待ち構えている。その現実が、これまたリアルに描かれているのだ。

 

俺のところには、小中学校から薬物乱用防止の講演依頼もある。公的機関の場合、依頼されてから講演するまでのスパンが長い。今後は、俺なんかの講演を待つよりも、「マトリズムを読んで、真実と実態をためらうことなく分からせるべき!」と言うつもりです!