説得

 

「説得」というとおそらく多くのひとが、

=「ロジカルな会話で相手を納得させて、行動をとらせる」

というイメージを持っているのではないか。

 

俺自身、「説得移送」と銘打ってこの仕事を始めた当初は、

いかに理屈の通った話をして、相手に納得してもらうか…

ということを、一生懸命、考えていた。

 

しかし20年近く家族の問題に携わる中で

俺の目指す「説得」とはそういうものではない、と思うようになった。

 

そもそも、俺のような第三者と初めて話をして

すんなり納得するようなひとが、心の病気と言えるだろうか?

病気だとしても、自ら病院に行けるレベルだろう。

 

もちろん、移送会社による強制拘束という手段で医療につながるよりは、

きちんと話し合う時間を設けた上で医療にかかるほうが、

その後の治療への取り組みにも差が出てくることはたしかだ。

 

だが、それで入院治療が完璧にうまくいく、ということではない。

主治医や医療機関との相性などは入院してみないと分からないことだし、

入院後、本人に対して家族がどう向き合うかによっても変わってくる。

 

移送時の「説得」は、効果が永遠に持続するような魔法の杖ではないのだ。

 

では、俺の考える「説得」とは、いったい何か?

それは、「命を守る」「人間関係をつくる」ということに、尽きる。

 

こういった問題を抱える家族の多くが、相談相手もおらず、

行政や医療機関からも見放され、孤立している。

その家族からさらに距離感をもたれ、

厄介者扱いされていることさえあるのが、対象者本人である。

 

その孤立した本人、そして家族を、

社会で生きる人々(まずは行政、医療、福祉の専門家)に、

どうつなげていくか。

 

ただ機械的に連れて行くのでは意味がない。

お互いが人間らしく、ひととしての感情をもって

つながりを持てるようにする。

 

それを成し遂げるのが、俺の使命だと思っている。

 

家族は丸ごと孤立しているからこそ、必ずと言っていいほど、

そこには「命」に関わる問題が横たわっている。

 

対象者の多くは、心だけでなく身体の調子も崩していたり、

第三者にまでおかしな言動をとっていたりする。

親子関係が刃傷沙汰に至るほど悪化していることも、少なくない。

 

俺は、「説得」という手段をつかって、

「あなた、このままじゃダメだよ」「命の危険があるよ」

という真実を、伝えているに過ぎない。

 

「命」の話をする以上、俺もトコトン真剣、真摯に向き合う。

たとえ病気が理由であっても、

自分や家族の「命」を粗末に扱っている相手には、本気で叱りもする。

 

それは家族に対しても、同じだ。

本人に悪影響を与えている人物には、はっきり指摘するし、

あえて、親子の間に距離をとらせることもある。

 

行政や医療機関の専門家に対しても、また然り、である。

ニコニコしながら「お願いします」と言ったところで、

一生懸命動いてくれるとは限らない。

 

ときには、文句を言ったり、どやしつけたりすることも必要なのだ。

あちらは「押川なんかに言われたくない」と思うからこそ、

本人に対して、真剣に関わってくれるようにもなる。

 

常々言っていることだが、

この問題を解決するためには、誰かが悪者になる必要があるのだ。

 

俺は、俺が悪者になることで、本人に関わる人たちが

自分の役割を果たしやすくなるのなら、それでいいと決めている。

 

不器用と言われればそれまでだが

それが俺なりの「人間関係の作り方」でもある。

 

押川写真

 

説得の最中に、本人から「警察を呼びますよ」

と言われることも、よくあることだ。

 

これは、相手が身の危険を感じているという訴えでもある。

もちろん俺は、対象者を傷つけるようなことは一切しないが、

命のやりとりに対して、相手も命の話を返してきている証だ。

だからこそ俺は、「このひとには生きる気持ちがあるな、大丈夫だな」と感じる。

 

俺はいつも、「(警察を)どうぞ呼んでください」と答えるのだが、

そうすると相手のほうがビックリして、

「え? 呼んでいいんですか? なんでですか?」となる。

 

そのうちに、「あなたこそおかしいんじゃないか。

病気じゃないんですか」と、俺のことを心配しだす。

 

人間らしい気持ちのやりとりに、俺はすごく嬉しくなる。

 

もちろんケースによっては、恐怖を抱くような場面もある。

「殺すぞ」と言われたり、部屋から刃物が出てきたりすれば、ゾッとするし、

勢い余って殴られたり蹴られたりすることも、ないわけではない。

 

でも、それも結局は「命」のやりとりであって、

「命」を守るのが、俺の使命だと思っているからこそ、向き合う覚悟はできている。

 

「説得が無理だと思う相手はいますか」

これもよく聞かれる質問だな。

 

俺が相手にしたくないのは、最初から、「必ず入院させてくれるのか」

「納得しなかったらどうするのか」と確約を求める家族。

 

なぜならこういう家族に限って、家族都合の結論ありきで俺のところにくる。

真実と向き合って、家族(親子)関係を見直そうという気などなく、

ただ、結論を遂行するために、俺を利用したいと思っているにすぎない。

そんな家族相手に、人間やら命やらの話を説いても仕方ない。

 

それから、一般社会で生きているひとたちに対しては、

俺の説得は通用しない、と、いつも思うな。

一般の方々の多くは、俺の話なんか、真剣に聞いてくれないんだよ(笑)

 

「命を守る」「人間関係をつくる」

今のところ、それが押川流「説得」だ。

 

Posted by 押川剛