内面の暴走族

ある患者さんと話をしていて、思ったことがある。

 

この患者さんは、精神疾患を患い長年、自宅にひきこもっていた。

家族は、何度も服薬や通院を勧めたが、ずっと拒否し、

病気を悪化させてしまった。

 

服薬や通院を拒否するのは、

患者さんに病識(自分が病気であるという認識)がないからだ、

と一般的に考えられているし、俺も基本的にはそうだと思っている。

 

ところが、この患者さんを医療につなぎ、

状態が落ち着いてきたところで、面会に行ったときの話だ。

 

俺が本人に、

「薬も飲まない、通院もしないで、病気も進んでしまって、

自分でもおかしいなと、思わなかったかい?」

と尋ねると、患者さんは苦笑いをしながら、

「おかしいと思っていました」

と答えたのだ。

 

そのバツが悪そうな表情を見て俺は

「あ、全部、分かっているんだな」と思った。

 

俺が携わる患者さんは、ほとんどの場合、

家庭環境になにかしらの問題を抱えている。

明らかにそれが理由でこころの病気になっているケースもあれば、

こころの病気になったことで、家族から敬遠されているケースもある。

 

自分を煙たがる家族の気持ちが分かるからこそ、

無言の抵抗として、服薬や通院を拒否する。

風呂に入らなかったり、メシを食わなかったり、

あるいは問題行動を繰り返して、家族を困らせる。

 

まさに「内面の暴走族」だ、と俺は思った。

 

おそらく幼少期から、家族における自分の存在、

親にとっての自分の価値などに思い悩んできたのだろう。

 

一昔前なら、家を飛び出して、暴走族にでもなっているような人たちが、

家族の体裁、親の価値観によりがんじがらめに縛られ、

外にも出られなくなっている。

ここには、一億層中流などと言われるようになった、

各家庭の経済状況も関係しているように思う。

 

だから、こころの中だけで、暴走族をやるのだが、

俺には、本人なりの無言の抵抗に思えてならない。

 

暴走族は取り締まれるが、内面の暴走族は取り締まることはできない。

とくに、望んで内面の暴走族をしている奴、

それをしたくてたまらない奴を、説得してどーのこーのというのは、

俺にとっても、難しい。

 

それにしても。

暴走族にしても、内面の暴走族にしても、

「一般」のひとたちから理解されず、

こころない眼差しを向けられるのは同じである。