人間としての本質

仕事柄、患者を含め多方面から、

精神科病院や精神科医の情報が入ってくる。

 

ある程度の時間を割いて患者の話を聞いてくれる医師がいる一方で、

ろくすっぽ診察もせずに、投薬の指示だけを出す医師もいる。

 

病院(医師)の情報を持っておくことは、俺の仕事の要でもあるので、

そういう話には、真摯に耳を傾ける。

 

先日、あるきっかけで知り合ったひとが、

精神科で治療を受けたことがあると、経験談を話してくれた。

よく眠れない日が続いたため、首都圏にある某クリニックを訪れたのだそうだ。

 

ここから先は、彼の経験談を元に書く。

 

そのクリニックには、受付も看護師もおらず、

患者は待合室で自動整理券を受け取る。

 

午後の遅い時間だったが、番号は【32番】。

日に40人程度は患者が来ていると見られる。

 

やがて、診察室の中から番号を呼ばれる。

室内には医師の姿しかない。

医師自身が患者の保険証を受け取り、

まずは、パソコンでカルテらしきものを作成する。

 

そして、「どうかしましたか?」と診察が始まる。

口調は静かでゆっくりとしており、感情の一切は見えない。

 

「あまり眠れないんです……」

彼が答えると、医師は聞いた。

「眠りが浅いのですか?」

「そうですね、夜中に何度も目が覚めてしまいます」

「お仕事の時間帯はどうですか?」

「残業が多いので、帰宅はいつも22時くらいです」

「朝は何時に仕事に行かれるのですか?」

「6時半に起きて、7時半くらいには家を出ます」

「わかりました。まずはこのお薬で様子をみてください」

 

これが診察の全容である。

診察時間は、3分もなかった。

 

医師は再び机に向き直り、パソコンを打ち、

プリンターから吐き出された紙を、患者に渡した。

「調剤薬局でお薬をもらってください」

それは処方箋で、三種類の向精神薬が記されていた。

 

医師は、背後にあるレジをピピッと打ち、金額を告げる。

患者は、ここでお金を払って診察室を出た。

 

「お大事に」

会計を含めても5分とかからなかったそうだ。

 

診療明細書を見せてもらうと、

自己負担額(3割)が約1500円だったので、

医療費総額は約5000円になる。

 

会計含めて約5分の診察で、5000円。

分給にしたら、1000円か!!

 

一日に最低40人の患者が来ているとして、

単純計算すると、一日の報酬は20万である。

そのクリニックは週に4日の営業なので、

月に換算すれば、320万程度の報酬があることになる。

 

クリニックは雑居ビルの一室にあり、働いているのは医師一人。

どれだけ高く経費を見積もっても、月に50万程度で済むだろう。

となると、毎月約270万が医師の懐に入っていることになる。

 

患者に3、4つの質問をして処方箋を書くだけで、月収270万。

もちろんこれは、俺が調査をした上での概算でしかないし、

実際にはここから税金等を引かれたりもするのであるが、

それでもこのご時世に於いては、神の領域と言える。

こころの治療が、ビジネスとしてシステム化されている。

それもかなりのエコシステムだ。

 

この知人は、再度クリニックを訪れているが、その際、

「今のお薬で眠れていますか」との質問に、

「時々トイレに行きたくて目が覚めます」と答えたところ、

「そうですか、そしたらこの薬をもう一錠増やしておきますね」

と、いともあっさり言われたそうな。

 

彼は、その治療方針になんとなく不安を感じて、病院を変えた。

しかしもっとこころが病んでいて、何も考えられないほど気力を失っていたら、

言われるままに薬を飲み続けたかもしれない、とも言った。

 

なぜならその医師は、一貫して穏やかで静かな物腰を崩さず、

シュッとした装いから、とても真面目な人柄に見えたからだ。

つまり見た目だけでは、そんないい加減な診察をするとは思えない。

 

仮に俺がこのクリニックを訪れ、診察のインチキさを指摘でもしようものなら

間違いなく俺のほうが「クレーマー」のように見られるだろうし、

110番通報かなんか、されてしまうに違いない。

 

ちなみにあとでこの医師の経歴を調べてみると、

国立系の医学部を卒業し、趣味は料理とマリンスポーツとのことだ。

 

俺は思った。

この医師は、何をテーマに仕事をし、人生を生きているのだろう。

 

料理やマリンスポーツを楽しむため?

そんな表面的な答えで納得してしまうのは、もったいない気がした。

ひとには言えない、金のかかる秘密でも抱えているのかもしれない。

 

いずれにせよ、患者を治療するという目的は、ないようである。

 

こんな精神科医もいる。もちろん立派な精神科医もいる。

どの商売でも同じだろうが、ようはピンからキリなのだ。

 

ピンからキリなのは、人間も同じだ。

肩書き、見た目、ライフスタイルからは計り知れない、

「人間としての本質」のようなものが、確実に、ある。

 

俺は、その「人間としての本質」を探って、思想するのが好きだ。

なぜこのひとは、こういうことを考えるのだろう。

こういうことを言うのだろう、こういう動きをするのだろう。

 

そこに俺なりに答えを出せたとき、また一つの本質が見える。

問題やトラブルを乗り越えるアイデアも浮かぶし、

俺の本業に置き換えれば、家族の悩みを解決することができる。

 

しかし今は、「人間としての本質」に重きを置くひとは、

あまりいないのかもしれない。

 

昔、「人は見た目が9割」というタイトルの本があったけど

まさに「見た目」だけで判断する人間が多いからこそ、

先述した精神科医のような「ビジネス」が成り立っている。

 

すごい時代になったな。

しかし俺は、常に逆張りで生きると決めているので、

分かりやすい見た目のよさなんか、まったくいらねーな。

いっそますます胡散臭く、信用できないスタイルと演出で、

己を確立していこーっと。