引き金を引いたのは、こいつらだ!! 相模原障害者施設殺傷事件4

容疑者が早期の措置解除(退院)となった理由について、俺は、背後にプロ(弁護士)の存在があるのではないか、と書いた。そう考えるに至った過程にこそ、今回の事件の鍵があるのだが、まずは各報道から分かる、容疑者の動きを整理しておく。

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2/14、15

容疑者が衆院議長公邸に手紙を持参する

2/19

精神保健福祉法に則り、警察官通報がなされ、緊急措置診察となる。

1名の精神保健指定医が「そう病」と診断し、他害の恐れがあることから、相模原市は容疑者を緊急措置入院させた。

※この日、容疑者はツイッターに「会社は自主退職、このまま逮捕されるかも……」とつぶやいてる。

2/20

入院中の尿検査で大麻の陽性反応を確認。

2/22

改めて別の精神保健指定医2名が診察し、1名の指定医は「大麻精神病」「非社会性パーソナリティー障害」、もう1名は「妄想性障害」「薬物性精神病性障害」と診断。市は措置入院の継続を決めた。

3/2

措置解除(退院)

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報道でも触れられていないので、一般の方には分からないかもしれないが、今回の件は、「緊急措置入院」(精神保健福祉法第29条の二)という、「措置入院」よりもさらに緊急性の高い対応がなされている。

措置入院は、強制力のある制度だからこそ、2名の精神保健指定医の診察の結果が一致すること、とされている。しかし、その手続き的要件を満たせないものの、あまりに急を要する件に限っては、精神保健指定医1名の診断で足りる等、要件が比較的緩和される。それが、緊急措置入院であり、入院期間は72時間に限られる。

よって容疑者は、2/19の緊急措置入院の72時間後(2/22)、あらためて精神保健指定医2名の診察を受けた結果、相模原市が、措置入院継続の判断を決めているのだ。この部分からも、容疑者の精神状態がかなり重篤であったことが分かる。他害行為の危険性が高いこと、措置解除後のフォローが不可欠であることは、相模原市の行政機関も十分に理解していたはずだ。

それでいながら、なぜ、これほど早期に措置解除(退院)となり、しかも、行政による退院後のフォローができなかったのか。その謎を解く鍵こそ、先日書いた「プロの存在」なのである。

相模原障害者施設殺傷事件2のブログでも触れたことだが、退院時に容疑者は、「八王子市に住む両親と同居する」として、神奈川県相模原市から、東京都八王子市に住民票を異動している。これにより、行政の管轄も神奈川県相模原市から東京都八王子市に移管される。

措置解除を決定する症状消退届には、退院後の帰住先や帰住先住所の記入欄がある。相模原市行政は容疑者の管轄が移管したことを把握していたが、転居先の八王子市の行政機関との連携はとられなかった。つまり、住民票を異動するという行為は、行政機関の関わりの限界をつく対応だったのである。

だからこそ俺は、この対応を、「プロってるな」と表現した。容疑者から大麻の陽性反応が出ていたからこそ、なおさらだ。

ちなみに、容疑者は自身のツイート(2/19)にて、「このまま逮捕されるかも……」とつぶやいている。その後の報道によれば、大学時代から危険ドラッグや大麻を使用していた、という周囲からの証言も出てきている。容疑者自身も、薬物使用により逮捕されるという危機感を持っていたと考えるのが自然である。

この大麻の件に加え、俺が弁護士の介在を推測した根拠は、容疑者の父親の職業が、学校教師という点にある。

俺のこれまでの経験上から言えることなのだが、学校教師や公務員、上場企業の幹部や、専門性の高い資格職など、いわゆる公益性の高い職業に就いている親にとっては、子供が違法行為を犯しているという事実は、親自身の人生にも関わる大きな問題だ。

だからこそ親は、治療の継続など問題の根本解決に取り組むよりも、たとえば、「薬物の使用が世間に発覚しないように」といった世間体を優先した対応をとる。そこで、いの一番に弁護士に相談に行く。

俺は、親や対象者自身から、このような場合の切り抜け方を、いろいろと聞いてきた。住民票の異動は、まさに問題をうやむやにする方法の一つなのだ。

なおかつこの容疑者は、昨年(2015年)6月28日に、JR八王子駅前で男性とトラブルになり、傷害容疑で書類送検されている。このときすでに、弁護士の存在があったことは間違いない。

ちなみに措置入院の際には、保護者の任に当たる者……つまり家族(主に親)や弁護士(代理人)なども、診察、及び入院中の面会に立ち会うことができる。今回の件では、最初の診察が緊急措置入院のため、家族が立ち会ったかは不明だが、入院の事実や診断結果は、家族に通知される。

容疑者は緊急措置入院となるほど治療が必要な病状にあり、入院後は、違法薬物の乱用も発覚し、薬物依存症が疑われた。他害の危険性が相当に高い人物であることは、医療機関も行政機関も家族も、分かっていたのだ。

しかしながらその患者は短期間で退院し、野に放たれた。報道によれば、容疑者はその後、たった二回の通院をしただけだという。

相模原市行政から、転居先の八王子市行政への連絡・連携はなく、警察にも、情報提供・情報開示をしていない。万が一の事態が起きないよう、本人を見守るための体制は、何一つなかったのである!!

読者の中には、「大麻(及び危険ドラッグ)」と聞いて、警察の範疇ではなかったのか? と感じる人もいるかもしれない。2月に神奈川県警津久井署がやまゆり園から相談を受けた際、容疑者との話し合いに津久井署も同席しているのだから、尿検査でもすればよかったのに、と思う人もいるだろう。

しかしこの段階では、万が一の危険行為への防犯のための同席が主であり、たとえ警察が尿検査を要請しても、それはあくまでも「任意」となる。本人が拒めば強制はできず、令状をとるしかない。

今は、薬物使用・所持の疑いなどがもたれる対象者に警察が職務質問をすると、「令状あるのか。任意だろ!」と返されたうえに、その場で電話をかけて、弁護士を呼ぶことが増えているとも聞く。そして、弁護士が現場に駆けつけ、対象者を弁護士事務所などに連れて行ってしまう。そのような、弁護士のビジネスもあるのだ。

昨今は尿検査ひとつとっても容易なことではなく、それこそ令状でもなければ「人権侵害だ!」と、弁護士を伴って警察を突き上げてくる。

今回の件では、神奈川県警津久井署の警察官や、おそらく施設の園長や職員も、容疑者がとった「障害者は安楽死」などの危険な言動に、精神疾患による、非常に危険な他害行為の恐れがあると感じた。そこで警察官が精神保健福祉法に則り、警察官通報を行ったのである。

なお、保健所精神保健福祉業務における危機介入手引きによると、自傷他害とは、以下のものを指す。

自傷他害とは(昭和63年4月8日付厚労省告示)

自傷行為を「自殺企図等、自己の生命、身体を害する行為」他害行為を「殺人、傷害、暴行、性的問題行動、侮辱、器物破損、強盗、恐喝、窃盗、詐欺、放火、弄火等他の者の生命、身体、貞操、名誉、財産等又は社会的法益等に害を及ぼす行為をいい、原則として刑罰法令に触れる程度の行為」をいう。

報道では専門家の見解として、「容疑者の言動は、精神障害ではなく思想(ヘイトクライム)の問題であり、「そもそも措置入院という対応が正しかったのか?」という意見も散見された。しかし警察は、危機的状態に対して現実に即した素早い解決を求められ、しかも本人の精神状態や、人権を考慮しなければならない立場にある。現行の法律を鑑みても、警察官通報を行い、そして緊急措置入院となった対応は正しかったのである。

問題はやはり、その後の対応にあるのだ。

中でも、措置解除(退院)後、自治体間(相模原市行政から八王子市行政)の連携がとれなかったことは、行政にその義務がないとはいえ、致命的であった。そのうえ、大麻の件や、退院後の本人の所在などについては、神奈川県警津久井署及び、転居先の警視庁八王子署に対して、人権や個人情報保護を理由に、情報共有されていなかった。

そもそも行政機関や医療機関は昨今、危険な自傷他害の恐れがある患者について相談にきた家族に対して「警察に相談してください」「何かあったら110番通報を」と乱発し、家族には、警察官通報による措置入院を推奨している。つまり、危険な自傷他害の恐れがある患者の初動の対応は、すべて警察に振っている。これは、行政機関の職員では対応がとれないほど、現場の最前線が危険に満ちていることの証明でもある。

しかしながら、患者が今回のように措置入院(緊急措置入院も含む)になった際には、警察の権限は、警察官通報を行うところまでであり、その後の主管は、行政機関(保健所)に移管する。行政機関(保健所)が主導権の全てを持つのだ。

そして、今回の事件のように、患者の違法行為を含む危機管理・危険介入等が必要な状況が生じても、基本的には、警察への情報開示、情報提供に基づく連携はとらない。

俺は、かつて似たような案件に携わったとき、行政機関に直接、その理由を尋ねてみたことがあるのだが、「行政機関は捜査機関ではないから、警察にいちいち情報開示をしたり、情報共有をしたりはしません。それこそ、患者に対する人権侵害に当たるじゃないですか!」と、逆ギレの勢いで返答された。

精神科医も、おおむね同じような考えがあるのではないか。今回の件でも、某報道番組に出演していた精神科病院の院長が、「治療においては、患者との信頼関係が大前提のため、薬物の乱用が発覚しても、絶対に警察には通報しない」というようなことを断言していた。

繰り返しになるが、今回の件では、殺害予告の手紙に関して、警視庁麹町署と神奈川県警津久井署の連携はとれており、他害の恐れのある人物を、精神保健福祉法に則り、医療につなげるという、事件を防ぐための初動対応は、完璧に行われていた。

そして、容疑者が緊急措置入院で医療につながった以上、主管は、完全に自治体の行政機関(保健所)となった。その主導権を握っていた行政機関が、退院後のフォローをしていなかった。人権や個人情報の保護ばかりを優先した結果、究極のブラックボックスと闇が生じてしまった。それが究極の盲点ともなり、今では弁護士が介入できる余地にもなっている。

 

2011年に起きた、長崎のストーカー事件を覚えているだろうか。千葉県に住む20代の女性が、同居していた男性から繰り返し暴力を受け、長崎の実家に逃げたものの、男性が実家まで追ってきて、女性の母親と祖母を殺害した事件である。

事件が起きる前、女性と家族は、女性の住んでいた千葉県、実家のある長崎県、そして男性の実家がある三重県の、三つの県の警察署に相談をしていた。それぞれに対応をとっていたため、対応に遅れが生じ、事件を防ぐことができなかった。当時の報道は、県警間の「連携不足」を指摘し、非難する声ばかりであった。のちに三つの県警は、連携不足を認める検証結果を遺族に説明、謝罪した。

そして2013年6月の「ストーカー規制法改正」において、加害者の住所地、実際にストーカー行為を行われた場所を管轄する警察等でも、警告や命令を行うことができるようになった。

今回の件は、まさに同じ構図だ。今回は警察に非があるのではなく、「主管である行政機関同士の連携不足」が、完全に露呈したのである

「脱施設化」や「地域移行」が推進され、保護者制度が廃止されたからこそ、自治体行政によるフォローは、相当手厚く、踏み込んだものでなければならない。

また、「早期退院」や「脱施設化」が推進されたことにより、一部といえども、医療につながることができていない対応困難な患者や、危険な自傷他害行為の恐れがある患者が、地域にあふれはじめている。

その結果、措置入院は警察官通報によるものが大半を占めており、保健所等の行政機関における手引きにおいても、そういった対応困難な患者を抱える家族からの相談に対しては、「110番通報をするようアドバイスする」ことがマニュアル化されている。 

それは、事件化するのを待つような状態に追いやられている患者や、その家族がいる、ということである。事件にすることで、対応の責任は警察に押しつけられるようにもなる。メディアは、この闇にも光を当て、掘り下げた取材をし、必要とあらば非難の声を上げなければならない。

もっと踏み込んだことを言えば、危険な自傷他害行為の恐れがある、対応困難な患者の事案について、そもそも行政機関が主管となっていること自体に、無理があるのではないか。行政機関の現場対応も限界に達し、破綻した結果が、今回の事件であるように思えてならない。そのような視点からの議論もなされるべきだ。防げたはずの事件であったからこそ、早急かつ具体的な対応策が、求められる。

 

俺は精神科医ではないし、メンタルヘルス系の資格も持っていない。心理カウンセラーでも、弁護士でも、大学教授でもない。いかなる組織にも属さず、国家資格ももたず、助成金を受けているわけでもない。専門家ではない現場の人間だからこそ、断言できることがある。

相模原障害者施設殺傷事件。これほどまでの犠牲者を出す引き金を引いたのは当該行政機関と、その根幹を司る監督省庁である厚労省だ!」

あらためて、亡くなられた多くの被害者の方々に、謹んでお悔やみ申し上げます。尊い命の犠牲を無駄にしないために、非力ではありますが、俺は闘います。