「現場脳」押川が、法律からみる重大過失者は、こいつらだ!! 相模原障害者施設殺傷事件5

相模原の事件を正しく検証し、このような凄惨な事件が、再び起きないようにするためにどうすればよいのか。考えるべき事は、実は、たくさんある。

その一つ、植松容疑者の大麻、危険ドラッグの乱用については、すでにさまざまな報道がなされている。措置入院の際の尿検査で、大麻の陽性反応も出ている。違法薬物の乱用については、刑法に抵触する行為である一方、治療すべき対象であり、医療の側面も持っている。この二つの面をどう捉えるかによって、以下に取り上げる法律等の解釈、対応も、大きく変わってくる。

俺の考えを先に述べておくと、俺は薬物乱用者を精神科医療につなぐための移送や、更生にも携わっているが、対象者本人に直接、携わった時点で、薬物乱用の事実が認められたときには、110番通報をする。

また、移送当日に本人の様子がおかしいなど、その時点での乱用が疑われる場合には、本人を説得して、医療機関に連れて行く前に警察署に同行し、本人が任意で受けた尿検査の結果(陰性)を確認してから、医療機関に行く。

それは、違法薬物の乱用が刑法に抵触する行為であり、俺が社会的介入者の立場であり、公的な各機関との連携を主としている以上、違法行為を容認・隠蔽することはできないからだ。

相談に来た家族には、上記の説明をし、正式な依頼となれば、書面において家族からの同意もとる。これは違法薬物に限らず、その他の違法行為においても同じである。

なぜこのような対応をとるかというと、これまでの経験上、逮捕を免れるために、精神科医療を利用しようとする家族もいるからだ。事実、「違法行為が発覚した場合には、110番通報をします」と言うと、すごすごと帰っていく家族もいる。

日本が法治国家である以上、俺のような立場の人間が、そういった家族の行為に、手を貸すことはできない。その姿勢を、ずっと貫いてきた。

俺はそのように考えているのだが、先にも述べたように、違法薬物の乱用は、犯罪と医療の二面性があることから、公的機関、専門職の方々におかれても、考えはさまざまである。

たとえば、前回の記事でも触れたように、某報道番組に出ていた精神科病院の院長は、「(尿検査で患者から違法薬物の陽性反応が出ても)絶対に警察には通報しない」と断言していた。

俺が知る限りでも、薬物の専門医含む精神科医の多くが同様の主張をしており、その理由としては、「通報が義務になれば、患者が治療を受けにくくなるから」「治療をするに当たっては、患者との信頼関係が大前提だから」といったことを挙げている。

ところで、麻薬及び向精神薬取締法第五十八条の二には、以下のように明記してある。

(医師の届出等)

第五十八条の二  医師は、診察の結果受診者が麻薬中毒者であると診断したときは、すみやかに、その者の氏名、住所、年齢、性別その他厚生労働省令で定める事項をその者の居住地(居住地がないか、又は居住地が明らかでない者については、現在地とする。以下この章において同じ。)の都道府県知事に届け出なければならない。

2  都道府県知事は、前項の届出を受けたときは、すみやかに厚生労働大臣に報告しなければならない。

 

つまり、「麻薬中毒者」を診察した医師は、都道府県知事に届出をしなければならず、都道府県知事は、厚生労働大臣に報告をしなければならないのである。

なお、この「麻薬中毒者」についてであるが、日本の法律(麻薬及び向精神薬取締法)における「麻薬」とは、有名なものとして、ヘロイン、コカイン、モルヒネ、LSD、MDMA、マジックマッシュルームなどが該当し、それ以外にも、危険ドラッグなどを構成する多数の規制物質がある。

大麻や覚せい剤は? と思われる読者もいるかもしれないが、大麻は大麻取締法、覚せい剤は覚せい剤取締法で別に規制されており、大麻取締法、覚せい剤取締法、あへん法を合わせて、薬物四法と呼ばれる。

ところが「麻薬中毒者」に関しては、麻薬及び向精神薬取締法第二条において、以下のように明記されている。

二十四  麻薬中毒 麻薬、大麻又はあへんの慢性中毒をいう。

二十五  麻薬中毒者 麻薬中毒の状態にある者をいう。

 

また、厚労省のホームページには、麻薬中毒関係のページがあり、そこには、以下のように明記されている。

医師、麻薬取締官、警察官等が麻薬中毒者又はその疑いがある者を発見した場合に、麻薬及び向精神薬取締法において、その居住地の都道府県知事に届出・通報することが義務づけられている。平成13年以降、この届出・通報があった者は増加傾向にあったが、平成22年以降減少し、平成24年は2人であった。原因薬物は、大麻である。

 

ようするに、麻薬及び向精神薬取締法における届出・通報には、大麻も含まれるということが書いてある。相模原の事件に当てはめてみると、どうなるか。

報道によれば、植松容疑者は退院後、通院の必要性があると判断され、(現実には、二回だけ通院した)、ダルクなどの紹介もあったという。よって容疑者にも、条文における「麻薬中毒者」の適用があると考えられる。

つまり、植松容疑者に関しても、麻薬及び向精神薬取締法第五十八条の二に則り、診察した医師から、神奈川県知事への届出がされていたのか!? 神奈川県知事から、厚生労働大臣への報告がなされていたのか!? その点を、メディアも追及する義務がある!

ちなみに、なぜ報告の相手が警察ではなく、厚生労働大臣なのかというと、厚生労働省の地方厚生局には、麻薬取締部がある。通称「マトリ」と呼ばれる職員が、薬物犯罪の捜査に当たっている。

なお、覚せい剤取締法や大麻取締法には、麻薬及び向精神薬取締法にあるような、医師による届出の義務は明記されていない(これも、どうしてなのか、疑問ではある)。だからこそ、精神科医は口をそろえて、「薬物の使用が発覚しても、警察には通報しない」と断言する。

俺としては、ここに大きな矛盾を感じる。警察には通報しないと言っても、麻薬取締部は、医療機関と同じ厚労省の管轄下にあるのだ。つまり、同じ管轄下にありながら、一方(医療機関)は、(麻薬以外の)違法薬物の使用に気づいても届出をせず、一方(麻薬取締部)は、捜査や取締を行っている、ということになる。それとも俺が知らないだけで、内々では連携がとれているのだろうか?

さらに今回の事件では、措置入院と言う行政処分が行われたことから、相模原市の行政機関も、容疑者に大麻の陽性反応があったことを把握していた。

刑事訴訟法第239条には、以下の条文がある。

(告発)

第239条

1.何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる。

2.官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。

 

分かりやすく説明すると、官吏又は公吏(国家公務員または地方公務員)に就いている者は、その職務を行う上で、その職務内容に関係のある犯罪を発見した場合、告発をしなければならい、ということである。その不履行は、懲戒対象となる。

これを相模原の事件に適用した場合、容疑者を措置診察した医師(医師の所属が私立病院であっても、措置入院は行政処分にあたるため、診察時は公務員となる)および相模原市行政職員は、容疑者が大麻を使用していたと知り得たことで、110番通報義務があった、ということになる。

(なお、大麻取締法では、大麻の使用については処罰の対象とされておらず、尿から大麻の成分が検出されたとしても、逮捕されることはない。しかしながら、所持や譲渡がなければ使用もできないわけであり、「大麻の使用のみであれば、刑法に抵触しない」という解釈はできない)

しかし現実には、相模原市行政から警察への情報提供はなかった。守秘義務を解除して告発義務を履行するべきかどうか、行政目的に適うかどうかなどの見地から、告発義務の履行を免れると解したのかもしれないが、結果として、事件を防げなかった大きな一因になってしまった。

大麻の陽性反応に関して、警察への情報提供が行われていれば、措置解除後、神奈川県警及び警視庁は、また違った対応がとれたはずだからだ。

過去のブログでも述べてきたことだが、○○依存症(○○使用性障害)と名のつく疾患の場合、患者自身に治療の意思がないと治療効果が上がらない。治療者と患者の信頼関係が重視されるのは事実であり、警察に通報されることが前提となると、患者が事実を正直に話さなくなる、通院しなくなる、といった懸念も生まれてくる。よって、医療機関側は、警察との連携をとらないことが多い。

たしかに、自ら進んで依存症の治療を受けに来ている患者については、「治療が優先されるべき」という精神科医の主張もうなずける。ことに、2016年度の診療報酬改定では、薬物依存症の専門治療に診療報酬が認められており、専門医としては、患者に治療を受けさせたいという意図もあるだろう。

しかし今回のように、戦後最悪の死傷者を出す事件が起きてしまったことを鑑みると、薬物乱用の情報を、警察や麻薬取締部と共有しなかったことが、正しい判断だったとは、とても思えない。

とくに措置入院は行政処分であり、都道府県知事の権限で行われる。入院費も、よほどの高額納税者でない限り、自己負担分は全額公費負担(要は無料)となる。自治体の負う責任が重いからこそ、警察機関との連携も必須である。

少なくとも措置入院に関しては、薬物使用が発覚した場合の通報義務を徹底するなど、ルール化が必要だ!

措置入院の患者を受け入れる精神科医の立場にたっても、明確な義務づけがなければ、届出はしにくいだろうし、それでいてこのような事件が起こってしまえば、薬物乱用者への対応の如何について、迷いも生じる。

とくに昨今は、危険ドラッグの蔓延も危ぶまれている。麻薬や覚せい剤より危険な成分が含まれていることもあるといい、過去には、危険ドラッグがらみの事件・事故が相次いで起きている。

それら違法薬物の乱用を、精神科医療にかかることで見逃してもらえるという事実が既成概念化してしまうと、罪を犯しているという認識が薄くなるのも事実であり、乱用を反復させることにもなってしまう。

「被害者なき犯罪」といえども、違法薬物を購入した資金は、暴力団など反社会的勢力の資金源にもなっているのだ。

薬物乱用は「犯罪」と「治療」の二面があると言ったが、もう一つ、「更生」という側面もある。依存症という、自分の意思では止められない病気だからこそ、実は、周囲の支えがとても必要だ。

刑事事件として立件されることで保護観察がつくこともあり、また昨今は、刑務所や保護観察所でも、依存症に対する治療プログラムが実施されている。出所後、協力雇用主のところで就労するなど、医療以外の理解者の援助が得られることもあり、決してマイナスばかりではない。

なにより、内閣府を筆頭に各自治体行政は、子供たちに対して「違法薬物の乱用は犯罪だ」と、啓蒙活動を行っている。それなのに、今回の事件に関係した医師や、相模原市行政の職員に限っては、通報の義務はなかった……そんな詭弁を、国民は納得するだろうか。

真相の究明と、早急な法整備が求められる。