戦国時代

俺は、患者さんを医療や施設につなげるために “説得”をする。

本人がどんな状態にあろうと、依頼となれば直接会って話をする。

それはたしかに俺の特技であり、武器でもあるのだが、

実は俺に限らず、精神保健分野で仕事をしようと思ったときには、

絶対に避けては通れない部分ではないだろうか。

 

患者の中には、自傷他害行為など、危険な行為を繰り返すひともいる。

「触法精神障害者」という言葉があるように、犯罪に関ってしまうひともいる。

それもひっくるめて、精神保健だということは、

この分野を専門的に勉強したひとなら、誰でも知っているはずである。

 

しかし現状は、そういう患者は「トラブルの元」であり、「面倒」な存在と断定され、

保健所や福祉系のコーディネーターたちからも、関わりを拒否されてしまう。

 

彼らは家族の相談には、「そうですね」「大変ですね」と耳を傾けるが、

具体的な解決策は一切、言わない。

家族が「こういうふうになりませんか」とか

「●●したいので協力してもらえませんか」と提案しても、

「ご本人の意思を尊重しないと」とか、「うーん」とか言って、言葉を濁すだけ。

 

それならそれで、「自分たちはここまでならできる」「これはできない」ということを、

はっきりと言えばいいと思うのだが、それはしない。

 

とにかく、「面倒な患者」「面倒な家族」には関わりたくない。

どうやって言葉を濁して、家族ごとうまく排除するか。

これが今、精神保健分野の業界で働く大半の専門家たちの、

まぎれもない本音なのである。

 

そして、厚労省だの保健所だの、組織のなかにさえいれば、

そんな無責任も通用してしまう。

 

俺はこういう責任感のカケラもない専門家に会うたびに、思う。

いったいどんな夢をみて、精神保健の仕事を志したのか?

 

しかし、彼らをいちいち責めても仕方がない。

受け入れ先の医療機関も施設も、「質の良い」患者、家族の奪い合いなのだ。

暴れる、暴言を吐く、わがままを言う…

言わば「面倒」な患者は、医療にすらかかれない。

そして力尽きた家族は、患者に関わることを諦め、放置する。

 

精神保健分野ももはや、戦国時代に突入した感があるな。

だが、俺は諦めずに戦うつもりだ。