親の高齢化

事務所への問い合わせの内容を聞いていると、

対象者の両親が高齢化していることを、つくづく感じる。

 

当然、対象者本人も、40代後半~50代となり、

もう若いとはいえない年齢だ。

 

本人の抱える問題についてはさまざまであり、

適切な医療を受けられず、精神疾患が重症化している例もあれば、

社会と関わりを持たずに、何十年もひきこもっている例もある。

暴力や金の無心、束縛などを老親に強いている例もある。

 

親は、今まではなんとか本人の面倒をみてきたのだが、

自身の人生の終わりが近づいていることに気づき、

「このままでは死ねない」と、重い腰をあげて、

行政などの専門機関に相談にいく。

 

しかしここから事態を進展させることは、

なかなか難しいのが現実である。

 

なぜかというと、ここまでに至る背景には、

親子の共依存があることも少なくない。

また、親自身が体力的にも限界を迎えており、

子供と向き合うエネルギーを失っている。

 

結論として、「親と子を引き離すしかない」「もう一緒には暮らせない」

という選択肢しか、なくなってしまっているのだ。

 

そのためには、本人の居場所が必要となるが、

精神科病院での入院治療は早期退院が主流となっているし、

精神障害者の施設となると、作業などを通じて、

入所者の就労訓練・自立を促すものがメインとなる。

 

40代後半~50代ともなれば、就労や自立は遠い目標に思え、

本人に積極的な入所の意思でもない限り、なかなか受け入れてもらえない。

 

かといって、老人ホームのような高齢者向けの施設からは、

まだ若いから無理と言われてしまうのである。

 

さらに根幹の大きな問題は、親が高齢化するほど、

こういった精神保健の仕組みを理解できないことにある。

 

親は親なりに、行政機関などに足を運んでいるのだが、

説明を受けても難しい、耳も遠いし、目もよく見えないし……と

簡単な行政の手続きすら、うまく進めることができていない。

 

結果として、「相談したけど対応してもらえなかった」と諦め、

「もう心中するしかないのか……」と思いつめることになる。

 

これは、問題解決以前の話で、

相談者と専門家のコミュニケーション自体がとれていないことを物語っている。

 

俺はこの点に関しては、社会の流れとして、

「個人」というものが尊重される時代になった以上、

ある程度は仕方のないことなのかもしれない、と考えている。

 

「個」が尊重されるほど、それだけ「個の責任」も重くなるからだ。

 

「専門家はちっとも理解してくれない」「解決してくれない」

と嘆いたり責めたりするだけでは、事態は進展しない。

 

家族が何に困っていて、過去にどのような経緯があって、

今後、どうしていきたいと考えているのか。

相談者にも、それら事実を相手に分かりやすく伝える努力は必要だし、

もはや「義務」として課されている。

 

もし、親が高齢で専門家への対応すら難しいのであれば、

そこは、他の子供たち(本人の兄弟姉妹)が負わざるを得ない。

 

俺がここでひとつ言っておきたいのは、

「あなたの家族は大丈夫だろうか?」ということだ。

 

もし自分の家族について、少しでも不安に思うことがあるのなら、

「向こうから連絡もないし、なんとかやっているのだろう」

……などと楽観視せずに、様子を見に行く、情報を共有する、

といった行動をとっておくことをお勧めする。

 

直接、本人への対応はしないにしても、

少なくとも、これまでの経緯や現状を確認し、

今後について、具体的に話し合っておく。

それらは、親が元気なうちに、やっておくべきだ。