父親の立場

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(以下引用:産経新聞 2015年8月27日)

 

父刺した疑いで男逮捕…搬送先で死亡 山口

 

山口県警柳井署は26日夜、自宅で父親を刺したとして、殺人未遂容疑で、山口県柳井市片野西、無職佐原義英容疑者(32)を現行犯逮捕した。父の英俊さん(64)は搬送先の病院で死亡が確認され、同署は容疑を殺人に切り替えて調べる。

 

逮捕容疑は26日午後9時15分~30分ごろ、自宅で英俊さんの首などを包丁のようなもので刺した疑い。

 

柳井署によると、英俊さんは首を複数回刺されていたほか、胸や手にも切られたような傷があった。佐原容疑者は「殺そうとはしていない」と容疑を否認している。

 

英俊さんから「助けてくれ」と電話を受けた知人が柳井署に通報した。佐原容疑者は英俊さんと2人暮らしだった。

 

http://www.sankei.com/west/news/150827/wst1508270045-n1.html

 

 

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山口県で起きた事件である。

 

他のニュースでは、5月頃、家の中から怒鳴り合う声が聞こえたため、

近隣住民が警察を呼んだ、という記事もあった。

 

容疑者が無職ということもあり、

以前から、親子間の確執があったのかもしれない。

 

子供のひきこもり等で、弊社に相談のあるケースでは、

子供と父親が顔を合わせると、必ず言い争いになり、

ときには暴力沙汰にまでなるため、

「一つ屋根の下にいながら、互いの存在を一切無視して生活する」

という日々を続けていることが、けっこう多い。

 

お互いに顔を合わさない、会話を交わさないことで、

親子間の殺傷事件という、最悪の事態を回避しているのだ。

 

この背景には、とくに高学歴で経済的に成功をおさめている父親ほど、

家族の問題を外に出すことを嫌い、行政などの相談先があることも知らないことが挙げられる。

 

家庭内に隠しておこうとするからこそ、

本人のこころのケアや、精神疾患などの病気に対する理解も

乏しいままになってしまう。

 

よくあるのは、子供がひきこもる背景に、統合失調症などの病気や、

アルコール・薬物への依存などがあるにもかかわらず、

そこに気づいていない、というケースである。

 

もしくは、母親のほうは精神疾患を疑い、

医療につなげるべきではないかと考えているのだが、

父親がそれを認めようとしない、理解しようとしないケースもある。

 

とくに相手が息子となると、父親は「情けない」という気持ちが先立ち、

子供の顔を見るたびに「就労しろ」と言い募ったり、

「タダ飯食いやがって」というような、きつい言葉をぶつけたりしている。

 

根本的なことを言ってしまえば、幼少期から父子関係が薄く、

子供のことを知らない、理解できていないまま来てしまったのであるが、

大人になって、しかも関係がこじれてしまってから、

互いを理解しあおうと思っても、なかなか難しい。

 

両親が健在であれば、母親が緩衝材になり、

かろうじて父子の一触即発は避けられるのだろうが、

離婚や死別で母親が不在となると、そうもいかないだろう。

 

今回の事件では、容疑者の名前も報道されていることから

精神疾患の疑いがないということなのだろうけれど、

父と子の二人暮らしで、双方がいっそう孤立していた可能性は高い。

 

今や日本でも、三組に一組は離婚する、というデータがある。

女性だってバリバリ仕事をする時代で、今後は離婚後に、

父親が親権を持つケースも、増えていくのではないか。

 

そのような「万が一」を考えると、

父親自身、何かあったら相談できるような子育てのネットワークを、

日ごろから育んでおくべきなのだろう。

 

また、子供の問題で悩んでいる父子家庭のお父さんたちには、

できるだけ早いうちに、臆せずに専門機関へ相談に行ったり、

行政の支援を受けたりすることを、お勧めしたい。

 

父親は、母親に比べて、どうしても子供との関わりが薄くなりがちな分、

子供が抱えている問題に対して、正しい認識を持ちにくい。

 

ゆえに父親に限って、「そのうち、なんとかなるだろう」などと

甘く考えていることも少なくない。

しかし、こと家族の問題に限っては、

そううまくはいかないことのほうが、圧倒的に多いのである。