死んじゃったのかと思ったよ

事務所の近くのコンビニで、ペットボトルのお茶を買って店を出たら、大勢の人が新宿駅の方に向かって、ぞろぞろと歩いていた。近くにある新宿文化センターで催しものなんかがあった日には、こうやって大勢の人がぞろぞろ歩いていたり、横断歩道でたまっていたりする。

俺は、その人ごみを避けるようにして歩き出した。そしたら! 人ごみの中から一人のおばちゃんが飛び出して来て、俺の腕をガシッとつかんだ。

「ちょっとちょっと! あんたテレビに出てなかった? 危ない仕事で……」

 

俺はほんとに時々だけど、こうやって「テレビで見た」「雑誌で見た」と、街中で声をかけられることがある。意外かもしれないが、俺はそんなとき「いやいや、私じゃありませんよ」と言って、下を向いてそそくさと立ち去る。こう見えて気が弱いところがあるんだな!

そもそもその日、俺は、特に仕事も入ってなかったから、しけたスウェットの上下を着て、ヒゲなんかも剃ってなかった。だからなおさら「いやいや私じゃありませんよ」と言って、その場を去ろうとした。

だけどおばちゃんは、俺の腕を離さずに言った。

「あんた最近テレビに出てなかったから、死んじゃったのかと思ったよ!」

 

気の弱い押川モードに入っていた俺は、死んだなんて言われて思わず、「えっ」とおばちゃんの顔を見てしまった。

「あんた危ない仕事をしてる人でしょ! 事故にでも遭って、死んじゃって、それで最近、テレビに出てないんだと思ってたよ!」おばちゃんはまくしたてた。

「いやいや、死んでませんよ。生きてますよ」。ここまできたら俺も、死んでいることを否定せざるを得なかった。

 

「名前何だっけ?」

「押川です」

「そーうそう、押川さんだった! あんた仕事辞めたの?」

「いや、やってますよ」

「押川さん、あんた素晴らしい仕事してるね。これからも頑張ってよ。応援してるからね!」

「ありがとうございます」

「どんどんテレビに出て活躍してよ!」

「テレビに出てないと死んじゃったと思われるんだったら、これからは、どんどん出ますね(笑)」

 

俺が冗談を言うと、おばちゃんは笑顔になり、「頼んだよ、じゃあね」と、俺の肩を叩いてから、去って行った。

俺はすっかり普段の押川モードを取り戻し、遠ざかるおばちゃんに「ありがとうございます!!」と大きな声を上げた。おばちゃんは振り向いて、大きく手を振ってくれた。60過ぎの、ちょっと派手だけど、利発的な顔をしたおばちゃんだった。

 

俺の仕事は、危険な目に遭うことも多いので、しばらくテレビに出ていないと、「死んじゃった」と思う人もいるんだろうか。

そういえばこの間、何気なくyoutubeを見ていたら、過去に俺が出た番組の映像が、いくつかアップされていた。そしてコメント欄には、俺に対する誹謗・中傷がいっぱい書いてあった。

俺はそのコメントを、面白く読んだ。映像を見ただけだったら、そう感じるのも当然だよなーと思うからね。ネガティブな声、とくに外野・部外者からのそういう声に対しては、すごく冷静に、客観的に眺めている俺がいる。飾り気のない、人間のナマの声って感じがして、深く考えさせられもする。

誹謗・中傷・摩擦・軋轢……そういうものは、俺の生きるモチベーションにすら、なっているんだな。

「分かる奴にだけ分かってもらえればいい」。それが、俺の現場魂である。

 

だけど、そんなひねくれた俺でも。やっぱり、あのおばちゃんみたいに応援してくれる人がいるのは嬉しい。どんどんテレビの取材を受けてやろうとさえ思ってしまったよ。

だっておばちゃん、俺はまだ死んじゃいないからね!