<殺人未遂容疑>警官の拳銃奪い発砲の男逮捕 横須賀

 

(以下引用:毎日新聞 2016年1月14日)

<殺人未遂容疑>警官の拳銃奪い発砲の男逮捕 横須賀

14日午後2時45分ごろ、神奈川県横須賀市久里浜3の市営住宅「八幡ハイム」C棟7階の渡り廊下で、県警浦賀署地域課の男性巡査部長(30)が男ともみ合いになり、男に奪われた拳銃で撃たれた。巡査部長はその場で男を取り押さえ、殺人未遂と公務執行妨害容疑で現行犯逮捕した。巡査部長は右腕と右足の計3カ所を撃たれ重傷。命に別条はないという。

同署などによると、逮捕された男は同棟7階に住む無職、松木貴嗣容疑者(37)。同日午後2時半ごろ、男の声で「母親が買い物から帰ったら自分は殺されるかもしれない」と110番があり、巡査部長が駆け付けたところ、松木容疑者が刃物を持って渡り廊下に立っていた。巡査部長が「刃物を捨てろ」と言うと刃物を手放したが、巡査部長が体に触れると暴れだし、巡査部長が腰に装着していた拳銃を奪って4発発射したという。

松木容疑者は母親と2人暮らし。住民らにけがはなかった。

現場は京急久里浜駅から南西に約500メートルの住宅街で、周辺には中学校や児童公園などがある。近くにいた小学校6年の女児(12)は「『これ以上暴れるな』と大声がして、直後にバーン、バーンと音がした。しばらくしたら警察官が救急車で運ばれた。すごくびっくりした」とおびえた様子だった。

浦賀署の近藤誠副署長は「事案の詳細について調査し、今後の受傷事故防止に努める」とのコメントを出した。【村上尊一、田中義宏】

 

このニュースで、かつて俺が説得に当たった人物のことを思い出した。

 

もう十年以上前になるが、その男性は違法薬物乱用の後遺症と、

重度の向精神薬依存により、家庭内暴力や近隣トラブルを繰り返していた。

 

家族からの依頼で、医療機関につなげることになったのだが、

かなり精神的にも不安定だということで、移送当日には、警察官にも現場に来てもらった。

 

案の定、説得をはじめてすぐに、本人が暴れ出した。

警察官の方々が、なだめようと肩に手をかけると、彼は、「殺される~!!」と叫びながら、

一人の警察官の拳銃ホルダーに、手をかけようとしたのだ。

 

今回の事件のように、拳銃を奪われることはなかったし、

彼のことも、最終的には、無事に医療につなげることができた。

 

しかし俺にとっては、かなり衝撃的な場面だった。

相手が興奮状態の場合には、本当に何が起きるか分からない。

より一層、気を引き締めて危機管理をしていこうと自らに誓ったのである。

 

今回の事件の容疑者が、どのような精神状態にあったのかは不明だが、

(母親が「(本人は)うつ病だった」と話しているニュースもあった)

過去の経験を振り返りながら、「ついに起きてしまったか」と、

この事件を冷静にみている俺がいた。

 

しかし、またしても「無職」「親子のトラブル」というキーワードである。

 

拳銃を撃ったことはもちろん恐ろしいことであるのだが、

警察官が到着する以前に、刃物を持って団地の通路に出ていたという。

ニュースでは、近隣のベランダの仕切りを破壊している映像も放映されていた。

近隣の方々にしてみれば、恐怖以外の何物でもないだろう。

 

少し前になるが、アメリカの銃規制に関するニュースの中に、

以下のようなものがあった。

 

(以下引用:日本経済新聞 2016年1月5日)

 

米大統領、銃規制強化策を発表 即売会やネット販売監視

 

【ワシントン=川合智之】オバマ米政権は4日、相次ぐ銃乱射事件を受けた新たな銃規制の強化策を発表した。即売会やインターネットで銃を販売する業者を監視できるように登録を強化したり、銃の安全性を高める技術開発を促進したりするのが柱。銃規制に反対してきた米議会には頼らずに大統領権限を行使し、銃被害の拡大を防ぐ。

即売会やネットを通じた銃販売は規制の抜け穴になっていた。今回、販売業者の登録や購入者の身元確認を厳しくし、規制の抜け穴をふさぐ。銃乱射事件の犯人に精神疾患の患者が多いとの指摘を受け、精神疾患対策に5億ドル(約600億円)を投じる計画も明らかにした。

発表に先立ち、オバマ大統領は4日、リンチ司法長官らと銃規制策を最終調整した。その後、オバマ氏は「ふさわしくない人々が誤った理由で(銃を)持てないようにしたい」と述べた。自衛や狩りなどのために認められている銃保有の権利は侵害しないとしたうえで、犯罪者の手に銃が渡らないようにする必要があると訴えた。

オバマ氏は5日にホワイトハウスで声明を読み上げ、新たな対策を説明する。7日にはバージニア州で、銃の被害を減らすための対話集会に出席する。銃規制の是非を巡って米国内の世論は割れており、オバマ氏は銃規制の必要性を国民に直接訴えて理解を求める。

米議会は銃規制に反対してきた。集票力と資金力で知られる全米ライフル協会(NRA)が規制に反対してきたためで、議会で銃の規制法案が成立する可能性は今のところ低いとされる。オバマ氏は議会を通さずに大統領権限による規制強化に動いたが、議会で多数を占める野党・共和党の反発は必至だ。

 

記事中には、「銃乱射事件の犯人に精神疾患の患者が多いとの指摘を受け、

精神疾患対策に5億ドル(約600億円)を投じる計画も明らかにした」

とあるが、一方でアメリカでは、精神疾患の疑いがあり、錯乱状態にある者が、

駆けつけた警察官に射殺される事例が、相当数ある。

(これについては、『「脱施設化」欧米の現実』に書いた)

 

どうやらアメリカでは、心の病気と銃は、

もはや切り離して考えることのできない事態にまで、陥っているようだ。

 

今回の事件でも、このような状況で警察官がかけつけた場合、

アメリカであれば間違いなく、容疑者は警察官から射殺されているだろう。

 

日本はアメリカのような銃社会ではないので、

いくら警察官が拳銃を携帯しているとはいえ、よほどのことがない限り、

実際に彼らが拳銃を手にすることはない。

身を挺して、容疑者を取り押さえることしかできないのだ。

 

今回の容疑者に、精神疾患があったかどうかは分からないが、

少しでも、「そうかもしれない」という言動があれば、

警察官はむしろ、「患者の人権」を重視した丁寧な対応を求められる。

 

アメリカは銃社会であるからこそ、国をあげての社会問題として、

マスメディアも、こういった事件の背景にあるものを取り上げるし、

研究成果も次々に発表され、真剣な議論も交わされている。

 

かたや日本は、「危険なことはすべて警察に任せておけばいい」

という、思考停止ともいえる対応である。

 

それで警察官が銃撃されても、「職業柄、仕方ないよね」と言われてしまう風潮さえある。

 

警察官が拳銃を奪われた事に対する非難の声があるのは当然だが、

俺からすると、このように事件化する前に介入できなかったのか?

それについては、誰もが口をつぐんでしまう、この現状は、やはりおかしいと思うのだ。

 

とくに、容疑者が長年無職だった、となると、メディアの関係者も、

その背後にあるひきこもり、そして精神疾患の可能性を見越して、

深追いしようとはしない。

結局、事件に関する真相報道はされないまま、である。

 

誤解を恐れずにいえば、銃社会ではないからこそ、我々は安易に、

「警察に対応させる」ということで終結しているようにも思う。

 

もちろん俺も、このように事件化する家族の問題が多発する中で、

保健所の職員やメンタルヘルスの専門家に、

「現場の最前線に出よ」というつもりなど、毛頭ない。

 

ただ、できないことはできないと、はっきり言うべきだ。

そう思っているだけである。

 

現状は、この問題の主管は保健所や精神保健福祉センターにあるし、

職員達も「自分たちにはできません」ということは、決して言わない。

 

「本人に治療(相談)の意思があるなら、対応します」と言うわけだが、

これは、対象者の人権を尊重するやさしい言葉のようでいて、

家族にとっては、命綱をはずされるごとき、冷たい言葉だ。

 

こういった表面的な言葉で、自分たちの職責を果たしているように装っていることが、

俺には、納得がいかないのである。

 

精神保健行政も、現在の仕組みでは現実にそぐわなくなったということを、

きちんと公に言うべきでないか。

 

保健所の職員の方々だって、日々、対応困難な家族の相談を山のように受けているのだ。

制度や仕組みに対して、これはできない、もっとこうあってほしい、

こうすべきだ、こうしたら対象者や家族が助かる……

そう言いたいことが、たくさんあるはずなのだ。

 

精神疾患の有無はともかく、社会とうまく関わることができず、

なおかつ家族との間にもトラブルを抱えている成人は、少なくない。

 

彼らに対して、どの段階で、どのような社会的介入をすべきなのか。

とくに、家族が危険を察知して助けを求めているケースへの介入や、

緊急時の対応については、現実に即した真剣な議論が求められる。

 

そのためには、現場の方々の声を拾い上げ、

少しでも、たとえ一ミリでも、良い方向を目指していく。

 

本人の意思を尊重するという大義名分で、結果的に事態を放置してしまうことは

悩み苦しんでいる家族を追い込むことにしかならず、

日本の場合は【家族で殺し合って終わり】、そういう方向に向かっている。

 

本人や家族に限った話しでない。

 

第三者(今回の事件では警察官)の命が危険にさらされる事件が、

現実として起きている。

 

我々一般市民にとっても、決して、対岸の火事ではないのだ。

 

NHK

(画像はNHKニュースより引用)