警官に射殺された黒人青年、直前に3度警察に助けを求めていた

 

(以下引用:ニューズウィーク日本版 1月27日)

警官に射殺された黒人青年、直前に3度警察に助けを求めていた

昨年末、シカゴで19歳の少年が警察官に射殺され、またしても人種問題の絡んだ射殺事件かと注目を集めていた。今週公表された新しい記録から、その少年、クイントニオ・ルグリアが3回、911(日本の110番)に電話をかけ、オペレーターに電話を切られていたことがわかった。

12月26日の早朝、シカゴのウエストサイドにある父親のアパートの外階段で、クイントニオ・ルグリアは警察官に6発撃たれて死亡した。この事件では、隣人で5人の子供の母親であるベティ・ジョーンズ(55歳)も警察官に射殺されている。

いったい何が起こったのか。

これまでに判明していた通報は2件だけだった。1件はクイントニオ自身がかけたもの。もう1件は彼の父、アントニオ・ルグリアがかけたものだ。しかし、警察の不祥事を調査する独立警察審査機関は、市の危機管理伝達局(OEMC)がさらに2件の通話記録を提出してきたとしている。2件とも、当初公表された1件の通報よりも前にクイントニオがかけていたものだ。

最初の通報は午前4:18。「(緊急事態なので)警官に来て欲しい」と、クイントニオは助けを求めた。 「それだけではわかりません。緊急の要件は何ですか?」とオペレーター。

クイントニオは何度も緊急と訴え、ついには「身の危険が迫ってる」と言っている。オペレーターは、それ以上の詳細を話さない彼に対し、「質問に答えられないなら切りますよ」と言って、電話を切った。

OEMCのメリッサ・ストラットン報道官は、オペレーターが適切な措置を取らなかったとして、既に懲戒処分に着手しているとシカゴ・トリビューン紙に語った。命の危険があると通報者が話した時点で、警察官を現場に派遣すべきだったという。

クイントニオは4:20に2度目の通報をし、アパートに警察官を送ってくれるよう繰り返し頼んだ。3度目は4:21。別のオペレーターが電話を取り、状況をクイントニオから聞き出して、パトカーを手配した。いずれの電話でも、クイントニオの声には苛立ちが感じ取れる。

別の黒人射殺事件で抗議運動が起こったばかりだった  警察官が現場に向かっているその頃、父親のアントニオが911に通報。パニックに陥った様子で、息子が金属バットを持って「寝室のドアを壊して押し入ってきそうだ」とオペレーターに話している。

その数分後、警察官のロバート・リアルモがクイントニオを6回撃った。クイントニオがバットを振り回して襲いかかってきたという。隣人のジョーンズは、胸部を1発撃たれて死亡。撃ったのは同じ警察官で、彼女の死は「事故だった」と警察は発表している。

クイントニオは北イリノイ大学で電気工学を学ぶ2年生で、冬期休暇で実家に帰省中だった。母親は「優秀な学生だった」と話す。親族によれば、精神疾患を患っていたことがあり、大学警察の記録でも、ここ数カ月おかしな行動を取っていたとされている。

シカゴでは11月下旬、別の射殺事件をめぐり、警察への激しい抗議運動が起こったばかりだった。2014年10月に起きた事件だが、白人の警察官が黒人のティーンエイジャーを16回撃って死亡させた(撃った警察官は第一級殺人で起訴された)。そのビデオ映像が1年を経て公開されたのだ。

警察の不法行為だけでなく、隠蔽体質を露呈させた2つの事件。クイントニオの遺族は不法死亡訴訟を起こしている。

ローレン・ウォーカー

 

この事件に関しては、以前の記事でも触れている。

 

警察の(オペレーターの)対応に不適切な部分があったことは、確かなのだろう。

懲戒処分が下されることも、致し方ないのかもしれない。

 

しかし、射殺された学生が精神疾患を患っていて、

大学でもおかしな行動をとっていた記録がありながら、

911通報というトラブルに至ってしまったのはなぜか?

 

父親は、911通報の際に、「息子が金属バットを持って寝室のドアを壊して押し入ってきそうだ」

と話しをしている。ここまでの事態に至るまでに、

医療につなげるという対応がとれなかったのはなぜか?

 

……といったことについては、この記事では言及されていない。

この辺りは、日本の報道と同じように、アメリカでも、

突っ込んで触れられない分野なのだろうか。

 

日本においても、精神疾患を抱える対象者が、

家族や第三者とトラブルを起こしたときに、

そのしわ寄せを一手に引き受けているのは、警察機関である。

 

以前、警察関係者の方から聞いた話であるが、

警察沙汰を起こして留置場に入れられる人の中には、

精神疾患や薬物依存などを患っている数が、とても多いそうだ。

 

そのため留置場に精神科医を呼び、薬を処方してもらわなければならない。

都内の警察署だけでも、その予算に数億円が使われているという。

留置場が、精神科病院の保護室の役割まで担っているようなものだ。

 

長期入院や措置入院に反対し、脱施設化を支援する方々は、

「精神障害者の人間としての尊厳を大切にすべきだ」と声高に叫ぶ。

 

しかし、その結果、必要な医療につながることができず、

事件や事故を起こしたときには、留置場という、

言ってみればとても劣悪な環境に、追い込まれることになる。

 

なお、長年アメリカで暮らし、こういった社会情勢にも詳しい方から、

以下のような話しを聞いた。

 

近頃、ある都市を含むいくつかの刑務所で、

入獄中の人が、看守に殺される事件が相次いでいるという。

 

殺されたのは、精神疾患を患った人が多く、

本来なら精神科での入院治療など適切な処置を得るべきところが、

医療機関ではお金がかかるから、そうはならず、

なんらかの事件を起こして、刑務所に入っている。

 

刑務所内での看守による暴行は、本人が家族に訴えたところで、

証拠が無い限り、放置されてしまう。

亡くなって始めて、事件として明るみに出る。

 

アメリカで相次ぐ銃の乱射事件や、警察官による射殺など

それらの事件の背景に、精神疾患が少なからず関係していることは、

アメリカ国内でも、しだいに明らかにされつつある。

 

「刑務所ではなく、精神科病院での治療を」と訴える政治家もいるが、

財政赤字により、その補助にまでは手が回らないのが実情だという。

 

警察機関は司法の番人だ。

医療につながっていれば防げたであろう事件や事故の結果、

いくら危機的介入とはいえ、その司法の番人に、精神障害者の対応、

いわゆる医療的な対応まで任さざるをえない現状には、

やはり大いなる疑問を抱く。

 

「そうなる前に何ができるか」ということが、最も大切であり、

そのためには、家族からの相談を受けて、本人に会い、

適切な医療や支援につなげる、いわば初動を担える存在が、必要だ。

 

ちなみにアメリカでは、州にもよるが、メンタルヘルスサービスと、

警察機関を統合させたシステムの整備が進んでいる。

警察の協力を得て初動を担う緊急対策チームがある州もあるが、

それでも、圧倒的に人員や予算が足りていないという。

 

そもそも、これまでに欧米が推し進めてきた、「脱施設化」

(精神障害者を医療機関ではなく地域で受け入れるということ)に、

日本も漫然と追随しているわけだが、

その結果、精神科病院の病床数はどんどん削減されており、

対応困難な患者を受け入れることのできる病院も、少なくなっている。

 

もちろん、精神障害者はずっと入院させておくべきだ、

などということを、言いたいのではない。

ただ「脱施設化」が及ぼすマイナスの要素についても、

真剣に研究と議論が必要だと思っている。

 

事件化してから、警察の対応の非を追及するだけでは、

根本的な解決にたどり着けない。

それは、日本もアメリカも同じである。

 

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(画像はイメージです)