人生とは出会い

 

10年くらい前、信頼する精神科医のT先生が話してくれたこと。

『最近は、「子どものために自分の人生を犠牲にしたくない」ということを平気で言う親がいる。「人生とは出会い」であり、人生という容れ物のなかには出会いしか入っていない。よって、子どもとの出会いは人生にとっては一大事である』。

 

『しかし、その人生の現実を無視して、無意識のうちに自分が「快」だと思う方向に、自分にとって都合のいい屁理屈を述べ立てるような知的能力だけが肥大してしまった。そういった万年少年、万年少女の親が増えている』

……今、思い出しても深い。深すぎる。

 

T先生とは、俺が移送の仕事を始めた当初、信頼できる精神科医を探していたときに出会った。今のようにネットが発達していなかったので、俺が出会った患者さんや家族に「いい先生を知りませんか?」と聞きまくった結果、T先生にたどり着いたのである。

 

幼児を抱いた母親ほど見る目に清らかなものはなく、多くの子に取り囲まれた母親ほど敬愛を感じさせるものはない。(ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ)