Where Police Violence Encounters Mental Illness

 

今年からの新たな試みとして、海外におけるメンタルヘルス関連の記事を

できるだけ拾っていこうと思う。

 

和訳は、事務所スタッフに任せているので(翻訳のプロではないので)、

読みにくい箇所もあるかと思うが、許してほしい。

 

(以下引用:ニューヨークタイムズ2016年1月13日)

 Where Police Violence Encounters Mental Illness

(精神疾患患者対応時に警察官の武力行使が発生してしまう事案について)

 

By MATTHEW EPPERSON(シカゴ大学ソーシャルサービス学校 助教授)

(注:シカゴ大学にあるソーシャルサービス学校School of Social Service Administrationは、ソーシャルワーカーの訓練や社会福祉の研究が世界中で最も進んでいる学校である)

 原文はこちら

http://www.nytimes.com/2016/01/13/opinion/where-police-violence-encounters-mental-illness.html?_r=0

 

(以下訳文)

 ほぼ20年近く前、私は群刑務所のソーシャルワーカーでした。私はそこで初めて、警察官がどれだけ精神障害者のトラブル時に対峙しているのかという数の多さの現実を知りました。私のクライアントの多くも、警察官とのいさかいが絶えませんでした。その結果、普段から対応している警察官は彼らと顔なじみで、名前を覚えてしまっているような状況でした。患者らは圧倒的に貧困でした。貧困と精神疾患の両方を持つ患者は、たいていホームレスや薬物乱用者となりました。この問題が警察官に通報されるリスク増加の要因となっていたのです。

彼らと警察官のいさかいが起きた時、大抵が最終的に暴力や死で終わってしまうことが多いのが現実です。先月、Quintonio LeGrierという19歳の少年がシカゴ警察に射殺された事件が起きました。LeGrierさんの父親が警察へ通報し、警察が到着した時に、LeGrierさんは野球バットを振り回していたため、警察官は直ぐに彼を射殺したのです。

LeGrierさんは、以前にも警察官と対峙したことがありました。最近まで彼が通っていた大学で、そのような出来事が何度かあったのです。そのうちの少なくとも一回は、警察官が彼に対して銃を構えていました。LeGrierさんの経験は、私が以前受け持っていた、1990年代後半に大学生だったクライアントと、まさに同じ状況でした。そのクライアントは、精神疾患の症状が悪化した時に、何度か警察官と緊迫した局面を迎えたことがあったのです。

何が驚きかというと、20年たった今でも、彼らのような精神障害者の危機的トラブルが発生した時に、最初に対峙して対処しなければいけないのは警察官であるということです。ワシントンポスト紙の調べによると、2015年に米国内で警官により射殺された人数はおおよそ1000人で、そのうち25%の人に精神疾患の兆候が見られたということです。そしてアメリカ国内の群立、連邦刑務所に収監されている囚人の14%が重篤な精神疾患を抱えています。これらの数字が物語っているように、ほとんどの警察官にとって、精神疾患を抱えた対象者と対峙する出来事は、日常茶飯事に起きているということです。

これらの要因となっている国家の危機ともいえる要素が2つあります。1つは警察の暴行、もう1つは不適切なメンタルヘルスの治療です。私たちは警察官の暴行に関してのみ責め立てて、誹謗中傷をする傾向にありますが、それは間違いであることに気付かなければなりません。私たち社会が、精神障害者の危機的トラブル(特に貧困、少数派のコミュニティー内で起こる事件)に関して最初に対応するのは警察官だという流れを作った結果、警察官は彼らに対峙することを、余儀なくされているのです。そしてアメリカ全体を通して、メンタルヘルスサービスに対する取り組みが減退していっていることについても、伝えなければなりません。

現状は間違った方向へ進んでいます。2009年から2011年にかけて、LeGrierさんが住んでいたイリノイ州では、コミュニティメンタルヘルス治療サービスの予算が1億1300万ドル(注:約135億円※$1=120で計算)以上も削減されました。イリノイ州シカゴでは2012年に予算削減の対策として、公立の精神科病院が12から6に減らされています。イリノイ州は、全国的な傾向に沿い、メンタルヘルスサービスの財源削減の一途を辿っています。もちろんこういった予算削減により最初にダメージを受けるのは、精神疾患に既に苦しみ、更に悪化する危険性が高い貧困層の住民です。

こういった状況において、事実上、警察官は私たちの最前線に立つ人になります。今日において、精神障害者に関する危機的状況においての有力な警察モデルは、メンタルヘルスに関する緊急事態における対応の訓練を受けている「危機介入チーム(Crisis Intervention Team=C.I.T)です。現段階では、この訓練が実際に武力行使の軽減に繋がっているかどうかは、まだ結論には至っておりません。警察署はこういった訓練を行い、通報があった際には、訓練された警察官を適切に派遣できるよう取り組んでいますが、苦戦している状況です。専門家たちは、最低でも25%の警官にC.I.T.訓練を受けさせるべきだと推奨していますが、シカゴの警察官でこの訓練を受けた人数は、全体の約15%に留まっています。

しかし、訓練さえすれば、精神障害者に対峙した警察官が、武力行使してしまうという問題を解決できるわけではありません。San Antonio(テキサス州西部の経済中心都市)などのいくつかの都市では、メンタルヘルスサービスを法務執行機関(注:この場合は警察機関を指すと思われる)に統合させたような、良いシステムを構築する歩みを見せています。私たちは、メンタルヘルスにおける危機的状況の対応時に、警察官と連携する形の仕組みづくりに、お金を広く投資する必要があります。

例えば、LeGrierさんの様な家庭内のもめごとのケースでは、トリアージメンタルヘルスワーカー(※状況もしくは精神障害の重症度を判断するメンタルヘルス専門のケースワーカーのことか)が、瞬時に関連情報を収集して危害のリスクを査定し、家族も組織的な取り組みの一員として参加させます。緊急対策チームが電話対応し、必要な時には警察の協力を得て、最も安全で臨床的に最も適切な処置方法を決定します。それに対応するシステムとして適切なサポートを受けられる体制を作らないといけません。例えば、緊急事態の時にはトリアージセンターかリスパイトベッド(注:一時休養の病床)を提供できるようにすることです。そうすることで、トラブルを起こした精神障害者が送りこまれる典型的な場所となってしまっている刑務所や、緊急治療室、死体安置所に行く代わりに、より臨床的な方法を、患者に対して施すことが出来るようになります。

この取り組みは、心してとりかかるべき領域です。例えこの新しい手法が確立されたとしても、警察官と精神障害者の悲惨ないざこざや、どちらかが武力行使をする可能性は、完全にはなくならないでしょう。しかし、この方法であれば、より広範囲で適切な数々の対応を提供できます。それが、未来の暴力や収監を回避するまでの長い道のりを辿るきっかけとなるかもしれません。

私たちは、私たち自身の精神障害者に対する扱いを見直す必要があります。精神障害者が警察官によって射殺される事件が起きても人々の関心は薄く、注目が集まったLeGrierさんの死は、稀なケースです。恐らく見物人だったBettie Jonesさんも巻き込まれて射殺されたため、世間の注目が集まったのだと思われます。ミシガン州ファーガソンで起きたMichael Brown射殺事件(注:黒人少年マイケル・ ブラウンさん(18)が、丸腰であるにもかかわらず郡の警察官に射殺された事件)の10日後、現場から数マイルしか離れていないところで、年若い精神障害者Kajieme Powellさんが、セントルイスの警官に射殺されました。Michael Brownさんの死については、広範囲において反対運動がおこりましたが、Powellさんについては、射殺現場が映像(注:下記のyoutube)で捉えられていたにも関わらず、議論は一切広がりを見せず、誰も事件が起きたことすら知らないという状況です。

私たちが未来の悲劇を阻止するには、いち早く初動が取れるメンタルヘルスシステムの設立に向けて投資するべきです。そして、警察官を最前線の、孤立無援の対応要員であるという負担から解放させてあげなければいけません。悲劇の末に亡くなったQuintonio LeGrierさんやKajieme Powellさん、そして私の多くのクライアントのためにも、未来の悲劇を食い止める方向に進むことを願っています。

 

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(画像はイメージです)

 

病状の悪化による危機的状況にある精神障害者に対して、

アメリカでは、初動対応を任されているのは完全に「警察」である。

そして銃社会のアメリカでは、対象者を、問答無用で

射殺するケースが相次いでいるという。

 

明日、別のニュース記事も引用する予定だが、これが、

日本より何十年も先駆けて「脱施設化」を進めてきた、

アメリカの現在の姿である。

 

そして、「脱施設化」に追随してきた日本でも

今や、初動を任されているのは「警察」となりつつある。

 

アメリカでは、そのひずみの行き着くところとして、

警察官による精神障害者の射殺という形で多発している。

この事態に、いよいよ専門家たちも声をあげはじめ、

マスメディアも大きく報じるようになってきた。

 

この記事を投稿したMATTHEW EPPERSON氏も、

現場の最前線を見てきたからこそ、危機感を抱き、

メンタルヘルスの専門家と警察機関とが連携し、初動対応ができる

「緊急対策チーム」の必要性を説いている。

 

俺が、TBS水トク『THE説得』や、

『「子供を殺してください」という親たち』の中で提言した、

警察官OBを主体としたスペシャリスト集団と、本質は同じだ。

 

日本は銃社会ではないから、いきなり射殺されることはないが、

その代わりに、親が子を、子が親を、殺す。

それが、解決策の一つになってしまいつつある。

 

もちろん、欧米の「脱施設化」については、学ぶべき良い側面も当然ある。

しかし、後塵を拝している我々だからこそ、

先をゆく欧米の失敗や負の側面からも、多くを学ばねばならない。

 

この記事を読んだ悩める家族の中には、

「(トラブルを抱えた本人を)射殺してくれるアメリカが羨ましい」

と思う家族も、いることだろう。

 

こういうことを書くと、「おかしいのは押川だ」とまた言われてしまいそうだが、

それが現実であることを、俺は知っている。

 

日本の現場代表として、声を大にして言っておく。

初動対応における「緊急対策チーム」が必要なのは、日本も同じだ。

 

バカの一つ覚えのように欧米のやり方を真似るのではなく、

銃を遣わない日本だからできる「緊急対策」について、

今こそ真剣に議論し、海外に向かって発信すべきだ!!