血が騒ぐ

昨日、本気塾を卒塾して、現在は一人暮らしをしている元塾生に会った。

いつ見ても健康そのものの顔をしていて、喜ばしい限りだ。

 

彼女は約10年前まで、ありとあらゆる薬物をやりまくっていたのだが、

今ではそれが嘘のような、更生ぶりである。

俺が関わってきた中で、「こいつはもう大丈夫だ!」と太鼓判を押せる、数少ない人間でもある。

 

二度と薬物に手を出すことはないだろうと、誰もが思える彼女であるが、

私生活ではときどき、よからぬ人間関係に巻き込まれている。

具体的に書くことはふせるが、親しくなった人物が危ない思想の持ち主だったり、

趣味で参加した集まりが怪しい団体だったりすることが、非常に多いのだ。

 

おそらくかつての彼女だったら、そのまま突っ走り、いくところまでいったはずだ。

(彼女にとっては、薬物乱用もその結果だった)

しかし、本気塾で学んだ経験や、現在もスタッフと密に連絡をとっていることもあり、

今ではさわりの段階で、「何かおかしい」と気づいて、フェイドアウトできるようになった。

 

「私が自分の感覚で行動すると、必ず危ないものを引き当てますね」とは彼女の弁だが、

それは致し方ないことであると、俺は思う。

なぜなら彼女の親自身が、チンピラ的生き方をしてきたひとたちであるからだ。

チンピラというと少々分かりづらいかもしれないが、

表面的には良き親、良き人間を装いながら、裏では不法行為や不倫など不貞行為を重ねている親だ。

 

彼女は、薬物乱用という大きな過ちを犯してはじめて、親の真の姿を知った。

違う生き方を選ぶために、家族との縁を切ったものの、

親から譲り受けたチンピラ的要素は、彼女にもしっかり根付いている。

血が騒ぐとでも言おうか、無意識のうちに、

危ないもの、裏のある生き方に、引き寄せられてしまうのである。

 

本気塾に来る若者に限ったことではないが、

今の20代~40代はとくに、親の生き様を知らないひとが、多い。

 

彼らの幼少期に、親世代は高度経済成長の恩恵を被り、

一億層中流と呼ばれる生活が送れるようになった。

子供たちは生まれたときから一軒家に住み、望めば大学にも行かせてもらえて、

旅行だ、ブランド物だと遊ぶだけの経済力も、親から与えられてきた。

 

親世代は金を得たことで、自分たちの過去を抹消するかのように、

子供に分相応な習い事をさせたり、良い学校にいかせたりした。

もっと最悪なのは、情操教育もなしに「金さえあれば」という価値観を、

子供に植えつけてしまったパターンである。

 

生活の質を向上させたい、子供に良い暮らしをさせたい、

そう望むことが、一概に悪いことだとは言えないが、

上を見せるなら、下も見せておかなければ、バランスがとれない。

どちらを選ぶか決めるのは、子供自身である。

 

今、俺のところには、社会適応できず、親を恨み、

なおかつ親の資産を食いつぶして生きている若者に関する相談が、圧倒的に増えている。

 

なぜ? とひとは言うが、俺からすれば、「そりゃそうなるだろ」てな感じだ。

端的に言ってしまえば、本人の資質に合わない、

身の丈に合わない生活をしてきた(親がさせてきた)結果である。

 

どんなに周りが頑張っても、本人の資質や生き方は、そう簡単に変わるものではない。

親から譲り受けた「血が騒ぐ」部分は、誰にも止められないのだ。

ここから彼らの人生をどう軌道修正していくか。

それは、俺に突きつけられた難問でもある。