耳を傾ける

俺の事務所への問い合わせであるが、最近の傾向として、

以前にも増して、対応の難しいケースが増えている。

 

そのせいだろうか。

少し前までは、電話をしてきた家族が、

「行政機関や医療機関に相談に行き、話は聞いてもらえたけど、

根本の解決に至らなかった」と訴えることがほとんどだった。

 

しかしこの頃は、「どこに行っても、まともに話も聞いてもらえなかった」、

「こんなにちゃんと話を聞いてもらったのは初めて」と話す家族が、圧倒的に多い。

 

以前もこのブログで、電話をかけてきた家族の、

「発達障害支援センターは予約でいっぱいで、電話さえつながりにくい」

という声を紹介したことがある。

 

保健所も医療機関も、その他専門機関も、

相談が殺到していてパンク状態にあるのかもしれない。

 

一方で俺は、こうも思う。

他人の話、とくに面倒な話、厄介な話をじっくり聞いてあげられる、

そういうひとが、どんどん減っているのではないだろうか。

 

精神保健という、ひとのこころを扱うギョーカイでさえ、

そんな調子の有資格者を目にするようになっているのだから、

一般社会も同じ傾向にあると思っていいだろう。

 

話の内容ですら、選り好みするっていうのかな。

面倒くさい話、厄介な話には、耳をふさぐ。

 

だから、匿名で人生相談ができるネットの掲示板なんかが、

重宝され、流行っているのかもしれない。

 

自分が逆の立場だったら、面倒くさくて、厄介な話こそ、

身近にいるひとに聞いてほしいと思うはずなのにな。

 

俺は、テレビなどではどうしても、

一方的に説得しているシーンがクローズアップされがちだが、

実際は、家族の話にも対象者の話にも、真摯に耳を傾けている。

 

たとえ相手がむちゃくちゃなことを言っていても、その言葉の羅列の中に、

問題の真実、そのひとの人となりだけでなく、

“人間”というものの本質が見えることがあるからだ。

 

まあ、俺はこういう仕事をしてきているので、

クライアントに対しては、毎回、答えを出さなければならないが、

相手が家族や友人、恋人ならば、かっこいい返しや、

説教めいたことなんて、言わなくてもいい。

ただ、耳を傾けてあげるだけで、いい。

 

そうやって一生懸命、ひと様の話に耳を傾けていると、

ときどきポッと、すてきなひとが、俺の話に耳を傾けてくれる。

 

そういうもんではなかろうか。