女性のアルコール依存症

元アイドルの女性が、飲酒運転とひき逃げで逮捕された。この女性がアルコール依存症かどうかは専門医が診断することだが、報道によると、前日は収録で夜遅くに帰宅し、翌日は朝7時から仕事が入っているにも関わらず、朝までお酒が残るような飲み方をしている。アルコールに関して何らかの問題を抱えていたことは事実だろう。

 

振り返ってみると、俺への相談や移送依頼では、「アルコール依存症の女性(娘や妻)」というのは、とても少ない。だからといって、女性のアルコール依存症についてまったく耳にしないかというとそんなことはなく、たとえば知人との雑談の中で、「知り合いの奥さんの酒癖が悪くて」とか、「職場に酒を飲むと人格の変わる女性がいて」などという話を聞くことは、けっこうある。中には、「酒癖が悪いでは済まない、依存症ではないか」と思ってしまう状況の方も、しばしばいる。

 

そもそも女性は、体質的に、男性よりも早く依存症になりやすいと言われている。近年は、女性患者も増加しているそうだ(厚労省の調査によれば、2003年から2013年の10年の間で男性患者が32%増加したのに比べて、女性患者は75%増加した)。

 

女性が社会進出を果たし、お酒を飲む機会が増えたことも背景にあるだろう。お酒が飲める(強い)女性は、接待などの酒席でも重宝される。「いける口だね」などとおだてられて飲んでいるうちに、酒量が増え、習慣化してしまう。一般的には、年をとったり、結婚や出産などで生活スタイルが変わったりすることで、お酒との付き合い方も変わるものだが、中には晩酌を欠かせないまま年を重ねてしまう人もいる。度を超した飲酒が習慣化すれば、誰でも依存症になる可能性がある。

 

◆家族も認めたがらない、女性のアルコール依存症

 

それでも社会的には、未だ、「アルコール依存症と言えば、男の病気」というイメージが強いのではないだろうか。

 

依存症には「否認の病」という特徴がある。とくに女性の場合、本人だけでなく周囲もその傾向が強くなるように思う。たとえば、家族は「女(娘や妻)がアルコール依存症なんてみっともない」と考えてしまう。また、小さな子供のいる家庭だと、「母親が入院治療となったら、誰が子供の面倒をみるのか」という現実もあり、なかなか医療につなげる覚悟が持てない。家族もまた、アルコール依存症という病気を直視できないのである。

 

そうして問題を放置した結果、内臓をやられて身体的な入院に至るか、または飲酒による事件や事故を起こしてしまうか、という最悪の事態を迎える。ここまで来たときには、夫婦であれば「離婚」という言葉もちらつく。俺のところに「女性のアルコール依存症」の相談が少ないのは、そのためではないかと思う。

 

◆最悪の事態を避けるために

 

では、どうしたら最悪の事態を避けられるのか。身近な人の異変に気づいたとき、早い段階で医療につなげられれば、ベストである。しかし、これはなかなか難しいだろう。当ブログでは何度も「本人の意思」について語ってきたが、アルコール依存症はその最たるもので、誰がどんな飲み方をしようが、基本的には「自由意思」とみなされる。治療も「本人同意」が前提である。

 

ちなみに、アルコール依存症の治療や快復に携わる専門家は、「依存症に“意思の強さ”は関係ない。自分の意思ではコントロールできなくなるからこそ病気なのだ」と言う。それはもっともだが、一方で、治療に関しては「本人の意思」が尊重される。周囲の人たち(家族など)が医療につなげたくとも、本人にその気がなければ、つなげられないのが現状である。そこに俺は、大きな矛盾を感じる。

 

話を元に戻そう。最悪の事態を避けるためには、若いうちから、アルコールの弊害について、きちんと学ぶ機会があればいいと思う。以前、AbemaTVが女性のアルコール依存症を取りあげていたが、専門医が「最新の研究では、毎日飲酒するようになってから、男性が7、8年、女性が3、4年でアルコール中毒になるという結果が出ています」と話していた。このような知識が備わっていれば、あらかじめ飲酒が習慣化しないよう気をつけることもできよう。

 

また、「言ってはいけない 残酷すぎる真実 (新潮新書)」(橘玲著)では、アルコール依存症にも遺伝が強く影響していることが述べられている。もし家族や親族にアルコールで問題を抱える人がいるのであれば、飲酒は控えるほうが身のためだろう。

 

自由意思が尊重されるアルコールだからこそ、「飲まない」という選択肢を自ら選び取れるような周知・教育が必要だと、つくづく思う。そして「飲まない」という人に対しては、周囲も強要してはならない。そういったマナーについても、若いうちから身につけておくべきである。

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