すてきな人

俺はこの間、すごくすてきな人に会った。

 

Aさん(仮名)と会ったのは、とある信頼のおける人からの紹介で、

ビジネスの話をするためだった。

Aさんは俺に会うなり、その信頼のおける人の名前を出し、

「あいつから、押川ちゃんに会ってくれって泣きの電話が入ったからさ。

あいつの涙、止めてやらなきゃならんだろ」

と言って、握手を求めてきた。

 

Aさんは、その業界では「伝説の人」と言っても過言ではない。

過去に、業界では誰もが知っているような業績を残しているのだ。

でも今や、そんな素振りは微塵も見せず、

俺の前では、ただうまそうに酒を飲む、一人のおっちゃんだった。

 

「押川ちゃん、なんか面白い企画ある?」

Aさんからそう聞かれたので、俺は日頃から考えていたネタをいくつか話した。

するとAさんは目を輝かせて、

「それいいねえ! すぐやろう!! 金はあるから」

って、まるで子供みたいにはしゃいだ。

「金はあるから」って、Aさんの金じゃなくて、会社の金なんだけどね(笑)。

 

話が弾んでいる最中、俺の携帯が鳴った。

仕事上でいろいろと協力をしてもらっている友人からだったので、

俺は席をはずして、しばらくそいつと話をした。

電話を切ると、Aさんが「誰から?」と尋ねてきた。

「○○の仕事関係の友人なんですけど、向こうも今、50人くらいで忘年会やっているらしくて」

すると、Aさんは言った。

「よし! 全員、この店に呼べ!」

「50人ですよ」

「うん。全員、呼んじゃえよ!」

もう、最高だよな。

 

翌日、お礼の電話をかけたら、開口一番、

「押川ちゃん、俺、今の時間なら酔っ払ってないから、今すぐ契約しようよ」って。

具体的な契約の話なんて、まだ、なんにもしてないのに(笑)。

 

たった一晩、一緒に飲んだだけだけど、

ほかにも面白いエピソードが山ほどあった。

ここでは書けないようなことばかりなのが、残念である。

 

こういう豪快な人に巡り会えると、俺は最高に楽しい気分になる。

言ってることもやってることも、はっきり言ってめちゃくちゃなんだけど、

それこそ感性の赴くまま、現場の最前線で戦ってきた人だっていうのが、わかる。

ハートの部分で、熱いものを感じるんだよな。

 

最近読んだ、桜井章一の著書「運は「バカ」にこそ味方する」の中に

こんな言葉があった。

 

「世の中には利口ぶったバカは掃いて捨てるほどいるが、バカになれる利口はまずいない」

 

運は「バカ」にこそ味方する (ソフトバンク文庫)

 

まさにAさんのためにあるような言葉である。

 

ちなみに、Aさんは前歯が何本か欠けている。

「なんで歯がないんですか」と俺が聞いたら

「明日、はえてくるんだよ」とAさんは言った。

 

最高である。

 

※桜井章一の著書は俺も何冊か読んでいるが、

20年もの間、雀士としてヤクザの代打ちをしてきた人なだけあって、

言葉の切れ味が鋭すぎる。

命がけで仕事をしてきた人は、やっぱり違うなと思わせる内容だ。