佐世保の事件について 3

佐世保の事件については、この前の記事で終わりにするつもりだったが
また腹の立つ報道があったので、一応、触れておく。

 

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(以下引用:日経新聞 2014年8月3日)

 

佐世保殺害 容疑者父親「おわびの言葉もない」

 

殺人容疑で逮捕された少女(16)の父親が2日、

共同通信の取材に対して知人の弁護士を通じて応じ、書面で

「どんな理由、原因でも娘の行為は決して許されるものではない。

おわびの言葉さえ見つからない」と謝罪した。

 

書面で父親は「複数の病院の助言に従いながら夫婦で最大限のことをしてきたが、

私の力が及ばず、誠に残念」と述べた。

 

被害者に対しては「何の落ち度もない。人生の喜びや幸せを経験する時間を奪ってしまった。

苦しみと無念さ、ご遺族の衝撃と悲しみの深さを考えると胸が張り裂ける思い。

本当に申し訳ございません」と繰り返し謝罪した。

 

遺族にはまだ直接謝罪できていないとした上で

「この段階で社会に心情を申し上げることに逡巡した。社会的反響の大きい事件と受け止めている。

ご遺族の心情に配慮しつつ、謝罪や補償など力の及ぶ限り誠意ある対応を、

最大限のことをしていきたい」としている。〔共同〕

 

http://www.nikkei.com/article/DGXLASJC02014_S4A800C1ACY000/

 

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まったく、自己保身しか考えていない謝罪ではないだろうか。

 

第一に、父親は「複数の病院の助言に従いながら」と延べており、
まるで、精神科医の助言に従ってきたけどダメだった、とでも言いたげな文章である。

 

しかし実際には、医師からは入院治療を勧められ、
学校からも、一人暮らしをやめさせるよう求められていた。
にもかかわらず、具体的な行動はとらなかった。

 

この親にとっての「最大限のこと」とは、いったい何であったのだろうか。
加害少女(我が子)ではなく、
自分たちの生活を優先するための「最大限」だったのではないか!

 

俺がいっそう残念でならないのは、
この謝罪文に乗じて、(どこの報道か忘れてしまったが)
「加害少女はサイコパスだから、精神科医を頼られても困る」
と証言している医師もいる……という報道を目にしたことだ。

 

専門家として、そのセリフを、亡くなった被害者の少女に向かって言えるのか?

少なくとも、俺は言えない。

 

それにしても、今回のような事件(報道)があると、
精神科医療従事者が萎縮してしまい、ますます、
「面倒なケースは、最初から受け入れるのをやめよう」となってしまいそうで、
俺はそれを懸念している。

 

たしかに現時点でも、こういった、いわゆる対応困難なケースの受け入れに、
精神科医療は積極的ではない。
実際に、治療含め対応が難しいことも、
必死でやったからといって治る見込みが100%ではないことも、よく分かる。

 

だけど俺はこれまでの経験からも、
とくに10代のうちは、重大事件を起こす前の周囲の大人の対応如何によって、
矯正・更生の芽は十分にあると、思っている。

 

だからこそ家族も、絶対に諦めちゃいけない! と強く思う。

 

俺のところにくる相談でも、最近は、
家族(親)自身が早々に子供のことを諦め、放置している……
そういうケースが、本当に多いのだ。

 

このまま放置したら、明らかにトンデモナイ事態が起きると予測できるのに、
そういう親に限って、「病院(あるいは保健所など)にも相談に行ったけど、
どうしようもないと言われて対応をとってもらえなかったから」とか、
「自分にも生活や仕事があるから」、「民間業者に依頼するような金はないから」などと言う。

 

それらは一見、もっともらしい理由に聞こえるけど、
しょせんは親の都合にマッチした回答をくれるところを求めて
相談機関をショッピングしているにすぎない。
ようは、いざというときの逃げ道を作るために、あちこちに相談に行っているのだ。

 

万が一、子供が事件でも起こしたときには、それこそ佐世保の親と同じように、
「専門家に相談して、最大限の努力をしたけど……」とでも弁明するのだろう。

 

はっきり言っておくが、こういった問題に携わっている専門家たちは、
親や家族の話を、何千件と聞いてきている。

 

つまり、家族(親)が、どんなにとりつくろって話をしようが、
100%本気で子供のことを思っているかどうか、見抜くことには長けているのだ。

 

俺のところは民間企業なので、
子供に対する気持ちがない親には、「おかしいよ!」と、はっきり言える。
それで親が、ハッと気付いてくれることもある。

 

でも公的機関は、気持ちがない親には、気持ちがない対応しかしない。
ようするに、万が一のときにも、どこからも非難されないような、
当たり障りのない言葉を並べることに徹するのだ。

 

逆に言えば、こっちだって人間なんだから、
気持ちがある親には、気持ちで応えようという思いにもなる。

 

ついでに言っておくと、
俺はこの仕事を命がけでやっているので、業務料も高額なわけだが、
じゃあ大金もらえるなら何でもやるか? と言われたら、答えはNOである。

 

たしかに、この国の精神科医療のシステムには足りないところもある。
でも、本気で子供のことを最優先に考え、反省すべきところはして、
自分たちにできる最大限の行動をとっている家族には、
必ず誰かが手を差し伸べてくれるし、道もひらけてくる。
そういうもんだと、俺は思っている。

 

「あちこちに相談に行ったけど、解決しない」とぼやいている親は、
今回の佐世保の親のように、自分の保身や体裁ばかり考えてないか?
表面的なとりつくろいをしてないか?
今一度、胸に手をあてて、真剣に考えてみてほしい!!

 

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