2人の男

俺は少し前に、あるトラブルの解決に携わり、

AとBという2人の男に出会った。

 

2人とも20代である。

 

もともとそのトラブルは、Aが持ち込んできたものだった。

本人は被害者面をしていたが、自業自得の側面もあり、

俺からすると、加害者でもある。

 

反対にBのほうは、ただ巻き込まれてしまっただけで

言ってみれば、もらい事故のレベルである。

 

それにもかかわらずBは、「Aさんのためにも、自分ができることは何でもします」

と言って、問題解決のために、身体を張って協力をしてくれた。

 

ちなみにAとBは、今回の件でたまたま知り合っただけで

友達でもなんでもない。

 

俺は、Aを助ける義理など何もなかったのだが

Bの心意気に打たれ、Bを助けるためにも、問題解決に奔走した。

そして、俺のできる最大限のことをやり、区切りをつけた。

 

月日が流れて先日、俺はふとBのことを思い、久しぶりに電話をした。

するとBは、電話口でほとんど泣きださんばかりに声をつまらせた。

 

俺が「どうしたんだ?」と尋ねると、

実は、例のトラブルの余波で、いろいろと辛いことがあったのだが、

それがようやく一区切りつき、俺に連絡をしようと思っていた、と言う。

 

俺は言った。

「なんでもっと早く、俺に言うてこんかったんか!」

すると彼は、即座にこう答えた。

「いえ。押川さんにだけは、ご迷惑をかけてはいけないと思ったので……」

 

俺は、感心すると同時に、こころが震えた。

 

ここでは詳しく書けないが、俺が聞いただけでも激しく憤るくらい、

人間不信になってもおかしくないような仕打ちに、

Bはたった一人で、黙って耐え抜いたのである。

 

若いのに、本当にたいした奴だ!

最初に会ったときから、Bは気骨のある奴だな、と思ったが、

今回の経験により、人間として男として、一段と成長したように思う。

 

と、同時に、トラブルの張本人であるAのことを考えた。

 

Bが一人で闘っていた間、Aが何をしていたかと言えば、

行く先々で再びトラブルを起こしては、

「助けてください……」「もうどうすればいいかわかりません……」

などと、何度も半泣きで俺に電話をかけてきていたのだ。

 

毎回、ヘタすれば命に関わるような事態だったので、

俺も無視するわけにいかず、うちのスタッフまで巻き込んで、

その都度、面倒をみてきた。

 

Aはそのたびに、涙を流しながら、「ありがとうございます!」

「このご恩は一生忘れません!」「いつか必ずお返しします!」

などと言っていた。

 

その言葉が嘘だとは思わないが、Bがかみしめるように言った

「押川さんには本当に感謝しています」という、

たったひと言の重みとは、あまりにも違いがありすぎる。

 

Bとの電話のあとで、俺はAとも話をしたのだが、

結局、この月日の間に、Aが何を考えていたかというと、

「過去のことは、もう、忘れていました」と言うんだな。

 

俺はAとは何回も、何時間も話をしてきたが、

気づきも感動もないし、いつも消化不良のような思いだけが残る。

一方でBは、たった10分程度の電話で、俺を深く感動させ、

俺ももっと頑張らないかん! と思えるような、いい“気”をくれたのである。

 

AとBの違いは何か。

 

本質をみる俺からすれば、

常に命を張って闘うBと、

命をどこまでも軽々しく扱うA。

その違いでしか、ない。

 

命を軽々しく扱う奴の生き様が、

誰かにいい“気”を与え、こころを打つはずなど、ないのだ。