52歳息子が81歳母“殺害” 花瓶で殴り首しめる

52歳息子が81歳母“殺害” 花瓶で殴り首しめる

 


(以下引用:テレビ朝日系 1月5日)

東京・東久留米市で、52歳の息子が81歳の母親の頭を花瓶で殴り、首を絞めて殺害しようとしたとして逮捕されました。母親はその後、死亡しました。  5日午前4時半すぎ、「東京に住む弟から『母親を殺した』と電話があった」などと110番通報がありました。

 

警察官が東久留米市の住宅に駆け付けると、81歳の女性が頭から血を流した状態で倒れていました。首には絞められた痕があり、女性は搬送先の病院でまもなく死亡しました。

 

警視庁は、同居していた女性の次男が「花瓶で母親を殴った」と話したため、殺人未遂の疑いで現行犯逮捕しました。次男には精神疾患があり、「自分が喘息(ぜんそく)で苦しんでいた時に母親は助けてくれなかった」などと容疑を認めています。

 

 

年末年始、久しぶりに家族や親族で集まり、

楽しい時間を過ごした方もいるだろう。

 

その一方で、このような事件も起きている。

自宅の映像が流れていたが、手入れが行き届いているとは言いがたく、

時間が止まっているかのような印象を受けた。

 

次男には精神疾患があると報道されていることから、

過去に精神科への通院もしくは入院歴があったことがうかがえるが、

81歳の母親では、本人を継続的に医療にかからせることや、

日々の面倒をみることは、難しかったのではないか。

 

手助けが必要だと感じていても、

行政機関や医療機関に相談に赴くことさえ、

できなかったのかもしれない。

親の高齢化と、家族丸ごとの孤立。

現代を象徴する事件であり、痛ましい。

 

別のニュースになるが、兵庫県西宮市は2016年度から

精神疾患で医療上の必要性は低いのに、長期入院している

「社会的入院」の解消に向け、1年以上入院する市民をリストアップし、

退院や生活の支援策を共に考える事業を始めることを決めたという。

 

http://www.kobe-np.co.jp/news/iryou/201601/sp/0008698889.shtml

 

拙著やブログでも述べてきたことだが、

国は今、早期治療・早期退院を推し進めている。

 

精神障がい者の社会復帰支援が充実することに、異論はない。

 

ただし、対象者を医療機関に移送するだけでなく、入院中の面会や、

退院後の支援にも携わっている立場の俺からしてみれば、

快復にかかる時間も、その後の歩みも、各人によってまったく違う。

 

その方の症状はもちろん、発症してからの年数や、

これまでに医療にかかってきたかといった、経緯にもよる。

家族関係や生育歴も、少なからぬ影響を与えている。

 

今回の事件もそうだが、親が高齢となり、

自宅での面倒をみることが難しいケースも増えている。

 

また、高齢ではなくとも、親子関係が悪化しきっていて、

とてもじゃないが、一つ屋根の下では暮らせない家族もいる。

 

現状の、国の「地域移行」の取り組みには、

この「家族の問題」という視点が、欠けている。

 

表向きは、地域で患者を支える、というふうに言っているが、

現実には、家族の協力を当然のものとして求めている。

 

たとえば、退院後のグループホームへの移行に関しても、

本人の同意(理解)を得ることは、家族で行うようになっているため、

親が高齢化している家庭や、本人との関係が悪化している家庭では、

なかなか話しが進まない。

 

仮に、グループホーム入居までは支援してもらえたとしても、

本人が共同生活を拒み、自宅に戻ってきてしまったときには、

再入居の説得は、やはり家族に任される。

 

そもそも、住んでいる地域によっては、近くにグループホームがない、

あっても常に満室で入居できないということもある。

 

退院後、病状が悪化して入院治療が必要となれば、

「家族で説得して、本人を連れてきてください」と言われてしまう。

 

そうこうするうちに、本人の病状も悪くなり、

いよいよ諦めて放置している家庭も多い。

 

そういった事態を防ぐためにも、地域移行に際しては、

各々の患者に対してだけでなく、家庭環境にも十分配慮したうえで、

きめ細やかなケアをしていかなければならない。

 

とくに、家族との関係が悪く、支援が望めない患者を、

地域で受け入れる場合にはなおさら、時間をかけて、

本人にそのことを理解させなければならない。

 

そのためには、行政や福祉の職員(地域生活を支援する立場の方々)と、

強固な人間関係・信頼関係をつくる必要がある。

 

そこを省いてしまうと、やはり本人の気持ちからすれば

「家に帰りたい」ということになるし、

ヘタをすれば、家族への恨みや怒りが増長してしまう。

 

その見極めは、非常に慎重に行わなければならない。

 

発症後、自宅にひきこもり、未治療の期間が長く続いたような患者や、

断続的にしか医療にかかっていない患者、入退院を繰り返してきたような患者が、

地域に溶け込み、社会とつながりをもって生きていくためには、

単純な治療だけでなく、生活訓練も不可欠である。

 

入院において、規則正しい生活をし、院内のルールを守る。

そういった日々を通じて、コミュニケーション能力や、

忍耐力や自制心も育まれる。

 

病院職員や他の患者と、トラブルを起こすこともあるが、

その都度、繰り返し諭すことが、暴力を伴う衝動性の抑止につながる。

 

本人にとっては不本意かもしれないが、入院生活そのものが、

認知行動療法としての効果をあげることがあるのだ。

 

とくに、依存症やパーソナリティ障害の治療が必要な患者にとっては、

一定の治療効果を奏することが多い。

 

その歩みもまた、ひとそれぞれである。

上り調子で良くなる方などおらず、

誰もが一進一退を繰り返しながら、前に進んでいる。

 

決して、入院時に「入院期間は○ヶ月」などと

決めつけられるものではないのだ。

 

上述したように、短期入院では社会復帰の難しい患者に対して、

時間をかけた治療を行っている医療機関でさえ、この頃は

「厚労省の締め付けが厳しく、このままでは経営が成り立たない。

早期に退院させて、事件が起きる可能性を思えば心苦しいが、

もはや致し方ない……」とこぼしている。

 

このままでは、対応困難な患者の治療ができる医療機関が、

日本に一つもない、という事態になりかねない。

 

それに対して厚労省は、「重度かつ慢性化」している患者への医療について、

未だに、明確な方針を打ち出していない。

 

今年中に、この問題が、一歩でも二歩でも進展するよう、

俺も精一杯、頑張っていくつもりだ。