脱施設化・地域移行の闇は、子殺しに直結する

 

少し前のブログに、福祉を学んでいる方から、

「脱施設化も地域移行も、私たち福祉を学ぶ人間は素晴らしい考えとして教えられてきたのですが、

それに伴う大きなリスクについて今回学ぶことができました」というコメントをいただいた。

 

民主主義国家では、その時代の流れにより政権政党が決まり、大人の事情により政策等が決められるわけだが、

日本では民主党政権時代の平成22年度(2010年)から、「精神障害者地域移行・地域定着支援事業」が実施され、

脱施設化・地域移行へと大きく舵を切った。

 

ちなみに、日本よりはるか先駆けて、脱施設化・地域移行が行われた欧米ではどうか。

 

今ちょうど、アメリカの精神医学の専門家が、その全容を書いた書籍を、途中まで読んだのだが、

以下のようなことが書いてある。

 

【アメリカではすでに、脱施設化・地域移行を進めた中心人物が、

この施策が最大の失敗だったことを認めている】

 

【医療機関と地域拠点(コミュニティセンター)の連携はなく、

コミュニティセンターは、単に家族の悩み相談や、

選挙の票集めの場となってしまい、

国から下りた補助金を好き勝手に使っていたケースも多々あった】

 

【医療につながれない患者たちは地域に放置され、

ホームレスの増加、刑務所の精神病院化という結果を生んだ】

 

【地域移行の初動関係者は大統領命令により処分されたが、

いったん舵を切った方向性を変えることは難しい】

 

この果てが、アメリカの場合は「警察官による精神障害者の射殺」であり、

日本の場合は、「危機介入を必要とする対応困難な精神疾患をもつ子供を、

親が殺す」ということである。

 

昨日も大阪府羽曳野市で事件があったように、もはやそれが、普通のことになりつつある。

 

もちろん、脱施設化や地域移行の方針がすべて誤りとは思わないし

社会的入院の解消に向けた努力は、今後も重ねていくべきだろう。

 

ところで、「日本の精神科の平均在院日数は、先進国の中でも突出して長い」

という話を聞いたことがないだろうか。

 

これは、WHO(世界保健機関)などからたびたび指摘を受け、

日本が脱施設化・地域移行を急ぐ際のキーワードにもなってきた。

 

しかし、ここには数字のトリックがあり、

実際の平均在院日数は、他の先進国とさほど変わらない。

(この詳細については、また別の機会に述べたい)

 

このように、真実とは異なる情報が流布される背景にも、

その時代の大人の事情なるものがあったのである。

 

そして、当時はメディアも、「脱施設化・地域移行」の成功例ばかりにスポットを当て、賞賛してきた。

その経緯があるから、精神疾患に起因する親子間の殺傷事件がこれほど続発しても、

その真実・真相究明には、なかなか斬り込むことができない。

 

こうして一般市民には、真実さえ知らされないまま、理想論ありきの脱施設化・地域移行が推し進められ、

精神保健の分野には、新たな既得権益まで誕生している。

 

もうすでに、欧米の轍を踏んでしまっているのだ。

 

精神保健の分野に限ったことではなく、何をするにも、

良いことばかり、ポジティブ要因ばかり、なんてことはあり得ない。

そしてネガティブな側面にこそ、緊急の危機があり、人命がかかっている。

 

俺は、危機介入の必要な現場を専門としてきたからこそ、

光と闇、ポジティブとネガティブの両面を見てきた。

リスクを負わずして問題解決など決してできない! と断言もする。

 

しかし日本の「脱施設化・地域移行」では、

その最も大切なネガティブな側面……「危機介入」については、

「絵に描いた餅」ばかりが増え、誰もリスクを負うことをしない。

 

国の施策や提言を読むと、徹底した危機管理が行われているのだが、

それは、対象者や家族を守るための危機管理ではなく、

「自分たちが責任を問われない」ための危機管理なのである。

 

こうして、危機に直面している家族ほど、事件化するまで放置される。

 

俺は、この「事件化を待つ」対応にも、

精神保健分野(とその従事者たち)の、卑劣なトリックを感じる。

 

なぜなら彼らは、事件化してしまった案件に関しては、

「それは警察事案だから」と、まったく関係のない顔をするからだ。

 

相模原の事件でも、そのような責任のすり替えがすでに起きている。

読者の皆様は、この視点も持って、報道を注視してほしい。

 

このままでは精神保健の分野の専門家には、

「責任をとらないプロフェッショナル」ばかりがはびこることになる。

 

事実、「脱施設化・地域移行」の闇について、その真相を最もよく知っている専門家は今や、

精神保健に関する権限もなく、予算も下りていない警察官だ。

 

アメリカの真実を書いた書籍については、日本の脱施設化・地域移行にもおおいに関係するため

読了次第、なんらかのかたちで紹介したい。

 

何度も言うが、精神障害者の危機介入を専門とする俺のような存在に、

未だに家族からのSOSが殺到しているという事実こそ、

「脱施設化・地域移行」失敗の象徴に他ならないのだ。