『「子供を殺してください」という親たち』コミックス第2巻、発売

 

コミックス第2巻を貫くテーマは「ひきこもり」だ。ひきこもりについて、俺が言いたいことはただ一つ。家族や専門家が「ひきこもり」というカテゴライズに入れたまま放置してきた中に、重い精神障害を患う当事者の問題がある。その人たちを、どうやって医療につなげるのか、ということだ。

 

俺が携わった長期ひきこもりの事例では、入院治療を受けたのち、地域生活に移行できた人もいる。その人たちを見ていると、本人に「社会とつながりたい」という意思があり、身の丈にあった生活を受け入れる覚悟さえあれば、食うには困らないだけの支援を受けられている。数年前に比べれば、その支援内容は格段に充実している。

ただし、そういう人たちも、介入した当初は「社会とつながりたい」という気持ちがゼロだった。本当に重い精神疾患に罹患していたからだ。ドアは完全に閉ざされていた。そういう人ほど、突発的な自傷他害行為の恐れも多くみられた。精神科病院での治療を受け、病状が安定することで少しずつ、ドアを開けてもらえるようになった。

 

今、精神科病院への風当たりは強くなっている。とくに入院治療に関しては「悪しき収容主義」と、まるで犯罪であるかのように批判する専門家も増えている。だが、「社会とつながりたい」という気持ちをゼロからイチにあげるために、精神科病院(入院治療)の力を借りるしかないケースもある。

俺の携わってきた社会復帰できた事例の多くが、親と距離をおくことで次のステップに進めた。家族との関係も含め、これまでの生き方を整理し、社会とつながるためにも、精神科病院は一つの重要な場所だ。その現実に、目を背けることはできない。

 

理想を掲げるのはたやすい。だが、理想ばかりを追い求めると、必ずひずみが出てくる。そのひずみをもろに受けるのは、本当の意味での弱い立場にある人々……メンタルヘルスでいえば、「社会とつながりたい」気持ちがゼロの人々だ。

 

一般の方々はあまり知らないことだが、移送(医療へのアクセス)の問題は、日本の精神科医療の大きな課題として、有識者や専門家の間で長く議論されてきたことなのだ(そして未だ解決していない)。やがて「ひきこもり」の概念が流行し、病識がなく医療につながれない人々までもがその枠に割り振られるのを、有識者や専門家はただ傍観する結果となった。

最近になってメディアは、「8050問題」(※親が80代、子供が50代の孤立した家族の問題。7040問題というのもある)などと名前をつけて騒いでいるが、過去を紐解いてみたときには、当然の帰結なのである。

 

地域移行・共生の理想を掲げつつも、命の危険のある緊急度の高い家族(当事者)に対して、どう「現実的な対策」をとるのか。並行して考えることができてはじめて、命を護れる共生社会になる。コミックス第2巻は、そんなことがテーマだ。巻末コラム「現場からの声」も魂を込めて書いた。ぜひ読んでほしい。